2016年12月31日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (403) 「ショロマ川・イクバンドユクチセ沢・メルクンナイ沢・ショウシウシ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ショロマ川

so-or-oma?
滝・ところ・そこにある
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
厚真川の北支流の名前です。この川の河口部も、現在建設中の「厚幌ダム」が完成した暁には水没することになりそうです。

この「ショロマ川」、東西蝦夷山川地理取調図に「シヨウロマ」と記されている川のことだと思われます(東蝦夷日誌では「シヨロマ」)。戊午日誌「東部安都麻誌」にも次のように記されていました。

扨此処の向岸と思ふ辺りに
     シヨウロマ
西岸川巾五六間、急流峨々たる山の間より落来るとかや。是滝川に成るより号るとかや。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.477-478 より引用)
ということで、これは so-or-oma あたりのような気がします。「滝・ところ・そこにある」と読み解けるでしょうか。本来は後ろに p(「もの」)あたりがあって、それが省略されてしまった、と言ったところかもしれません。

イクバンドユクチセ沢

i-kus-panke-yat-chise??
それ(クマ?)・通行する・川下の・木の皮・家
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
久々にさっぱりわからない川名が出てきました。これまでは、多少なりとも古い書物や古い地図にヒントがあったのですが、今回は残念ながらヒントらしきものを得ることができませんでした。また、「イクバンドユクチセ」という音から各種辞書などにも当たってみましたが、妥当な解釈を見出すことはできませんでした。

こんな状況ですので、「イクバンドユクチセ」には何らかの誤記、あるいは解釈ミスがあったと考えてみたいです。ここで大きなヒントとなるのが、イクバンドユクチセ沢の東側(厚真川の上流側)を流れている「ペンケユクチセ沢」の存在です。penke-yuk-chise は「川上の・鹿・家」と読むことができます。鹿の多い沢だったのでしょう。

アイヌ語の地名に於いては、penke- と対になる形で panke- が存在する確率がかなり高くなります。そのため、「イクバンドユクチセ」の「バンドユクチセ」は panke-yuk-chise である可能性が高いのではないかと考えました。

「イク」については、最もありそうなのが yuk(鹿)ですが、今回は yuk-chise が後ろについているのでその可能性は低いのではないかと思います。あとは i-uk で「それ・採取する」という風にも読めますが、「それ」が何を指すかが今ひとつ不明瞭に思えます。

ということで、別解を考えて見ました。i-kus-panke-yuk-chise で「それ・通行する・川下の・鹿・家」か、あるいは ika-panke-yuk-chise で「あふれる・川下の・鹿・家」あたりの可能性は無いでしょうか?

i-kus-panke-yuk-chise だと「それ・通行する」、つまり「クマも出る川下の鹿の家」といった感じでしょうか。ika-panke-yuk-chise であれば「跨ぐ」あるいは「越える」「あふれる」と言った意味となります。河口部が川の体をなしていなかった(斜面をそのまま水が流れるような感じ?)と言ったような特徴があったのかな、と想像してみました。

2021/4/29 追記
「東西蝦夷山川地理取調図」や戊午日誌「東部安都麻誌」には「マタヤツチセ」「ベンケヤツチセ」という記録が残されていました。「ヤツチセ」は「木の皮で作った家」とのこととあります。その点を加味してヘッドラインを修正しています。

メルクンナイ沢

me-ru-kunne-nay??
寒気・道・黒い・沢
me-ru-kus-nay??
寒気・道・通行する・沢
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
厚真ダムのすぐ上流側で厚真川と合流している支流の名前です。ダムの上流側にあるので、河口部はダム湖の底に沈んでいます。

戊午日誌「東部安都麻誌」に記載がありました(ほっ)。早速見てみましょう。

また少し上り東
     メルクンナイ
山間の小川也。其名義メルは寒気の事也、クンは氷ると云義也。此沢寒気甚しきによって早く凍ると云儀のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.479 より引用)
「メルは寒気の事なり」と記されていますが、手元の辞書などを見たところでは確認できませんでした。me は「寒気」なので、me-ru で「寒気・道」と考えるか、あるいは me-us(「寒気・ある」)が me-rus に音韻転訛したとか、その辺でしょうか。

「クンは凍ると言う意味なり」とありますが、これも意味を確認できませんでした。もしかしたら水面が凍った様を kunne (「黒い」)と表現したのかな、と思ったりもします。だとすると me-ru-kunne-nay で「寒気・道・黒い・沢」でしょうか。

東西蝦夷山川地理取調図を見ると、メルクンナイ沢と思しきところに「メルリシナイ」と記されています。「リ」が「ク」の誤記だとすると「メルクシナイ」となるのですが、これだと me-ru-kus-nay で「寒気・道・通行する・沢」と読めそうですね。

ショウシウシ川

{sos-o}-us-i??
{剥がす}・いつもする・もの
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
厚真ダムのダム湖の北側の注いでいる支流の名前です。本日 4 つ目の川名ですが、厚真シリーズ最終回ということで。

今回も戊午日誌「東部安都麻誌」に記載がありました。

また此向岸に
     シヨシユシ
此処平兀なるよりして号るとかや。シユシユシは兀平の事なりと。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.479 より引用)
「シユシユシ」……どことなく志布志市志布志町志布志を彷彿とさせますね。「平」は pira 即ち「崖」のことですが、「兀」には「高い」という意味のほかに「剥げている」という意味があるのだとか。

なるほど、sos-ke で「剝げている」という意味がありますが、sos-o で「剥がす」となりますので、{sos-o}-us-i で「{剥がす}・いつもする・もの」と言ったところでしょうか。がけ崩れが多かったのか、地肌が見えることが多かった場所だったのかもしれません。

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