2016年12月25日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (402) 「ポップナイ沢・オコッコ沢川・鬼岸辺川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ポップナイ沢

pop-nay
水の湧き上がる音・沢
(典拠あり、類型あり)
厚真町北部を流れる頗美宇川(はびう──)をずーっと遡っていったところに「北海道ロイヤルゴルフ場」というところがあるそうなのですが、その敷地内(だと思われる)を流れる川の名前です。このあたりには他にも似たような規模の川があるように見て取れるのですが、なぜかこの川だけ地理院地図に記載があります。ポップだからですかね(どの辺がだ)。

この「ポップナイ沢」、なんと戊午日誌「東部安都麻誌」に記載がありました。

また並びて
     ポツプナイ
同じく右の方小川。此処水が地中より涌出よし也、依て号るとかや。ホツフは涌立と云儀のよし也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.473 より引用)
はい。実は pop は「水の湧き上がる音」というオノマトペなんです。ということで、「ポップナイ」は pop-nay で「水の湧き上がる音・沢」と考えるべきなんでしょうね。

オコッコ沢川

o-u-kot-kot??
河口・互いに・くっつく・谷間
(?? = 典拠なし、類型あり)
厚真川の本流を遡っていくと「幌内」という集落があるのですが、その幌内の少し西側(下流側)で厚真川に合流する南支流の名前です。

今回も戊午日誌「東部安都麻誌」を見てみましょう。

また其上に
     ヲコツコ
東岸小沢の流れ有。其名義昔し大蛇住みしと云処の事也。ヲコツコは恐ろしきと云事のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.475 より引用)
これはまた……。「ヲコツコは恐ろしきと云事のよし」とあるのですが、なんでまたこんな謎な解が生まれてしまったのでしょう。

まず、「ヲコツコ」という語彙が果たして実在するのか……というところから確認しないといけません。

オコッコ【okokko】
 化け物,亡霊,幽霊,妖怪.
(萱野茂「萱野茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.170 より引用)
あっ(汗)。

うーむ、これはどうしたものでしょうねぇ……。okokko で「化け物」という解は一旦あるものとして、もう少し地名らしい意味を読み解けるかどうか、という話になってきました。

o-u-kot-kot という、若干言葉遊びのような解は考えられないでしょうか? これを「河口・互いに・くっつく・谷間」と考えてみるというものです。

現在はオコッコ沢が単独で厚真川に直接注いでいますが、隣のシュルク沢川と合流した後に厚真川に注いでいたことがあったとしたら、それなりに蓋然性が出てきそうな気がするのですが……。

鬼岸辺川(おにきしべ──)

o-nikur-pet??
河口・林・川
(?? = 典拠なし、類型あり)
幌内から厚真川を更に遡ったところで合流している東支流の名前です。このあたりは現在ダム工事中だった筈(厚真ダムの下流にもう一つダムが建設中)で、鬼岸辺川の河口ももしかしたら近い将来に水没するのかもしれません……。

東蝦夷日誌には「ヲニケシヘ(小川)榀皮多き義」とあります。「榀皮」に「こまい」とありますが、氷下魚のことではなく、シナノキの皮のことのようです。

戊午日誌「東部安都麻誌」にも似たような記載がありました。

また少し上に
     ヲニケレベ
右の方同じく小沢也。此川すじ榀皮多く有るよし。よって号とかや。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.477 より引用)
知里さんの「植物編」によると、シナノキの内皮を表す語彙としては nipes というものがありますが、他にも kuperkepkukerkepon-kukerkep といった表現があるようです。kuperkep は主に道東で使われるもので、日高のあたりでは kukerkep に転訛していたようですね。

このことから、「ヲニケレベ」が on-kukerkep(「シナノキの皮」)に由来する、という見方があるようです(戊午日誌の頭注)。一方で「東蝦夷日誌」の「ヲニケシヘ」という表記からは、o-nipes-pet(「河口・シナノキの皮・川」)とも考えられそうな気もします。

これらのインプットが無い状態で「ヲニケレベ」という音を読み解くと、o-nikur-pet で「河口・林・川」とも考えられそうな気もします。まぁ、これは参考レベルの話ですけどね。

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