2016年10月9日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (381) 「看看川・マカウシノ沢川・ルオマナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

看看川(かんかん──)

kankan
小腸
(典拠あり、類型あり)
二風谷とペナコリの間を流れる川の名前です。沙流川の支流で、二風谷ダムのダム湖(にぶたに湖)に注いでいます。

この「看看川」は、沙流川の近くでは台地を削るように流れているのですが、その蛇行っぷりが凄まじいのが特徴的です。石狩川などのように平野部を流れる川は、その地学的な性質上、蛇行するのが当たり前なんですが、この川は台地を削っている(堆積ではなく侵食している)のに蛇行しているというのが珍しいんですよね。

ということで、軽く文字数を稼ぎつつ(ぇ)、戊午日誌「東部沙留志」行ってみましょうか。

またしばし過る哉
     ホンカンカン
東岸に小川有。其名義は鹿の腸也。昔し此処に鹿の腸を神が童子共え呉給ひしかば、我もゝゝともらひしとかや。よって号る也。しばし過て
     カンカン
東岸平地に相応の川也。其名義前に云ごとし。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.689 より引用)
はい、実は川のクネクネっぷりがそのまま名前になっていたのでした。kankan は「小腸」という意味の単語ですが、まるで小腸のようにクネクネと流れていることから、この川の名前として使われるようになったようです。

マカウシノ沢川

makan-us-i?
奥へ行く・そうである・もの
makayo-us-i?
フキノトウ・多くある・ところ
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
(前述の)看看川は、もともとは沙流川に注ぐ支流でしたが、現在は沙流川に二風谷ダムができたため、ダム湖の「にぶたに湖」に注ぐ形になっています。
湖畔を走る国道 237 号線には「看々橋」という橋がかかっているのですが、看々橋のところで看看川と合流している支流が「マカウシノ沢川」です(実際にはその手前からダム湖になっているので、「合流」という表現はあまり適切では無いのかもしれませんが)。マカウシノ沢川のすぐ北側の高台には「びらとり温泉」がありますね。

では、今回は永田地名解(鍋大好き)から。

Maka ushi  マカ ウシ  開キタル處 支流ト本川ノ間廣キ處ヲ云フ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.230 より引用)
うーん、ちょっとマカフシギな解が出てきましたね(ぉ)。makan-us-i で「奥へ行く・そうである・もの」と考えたのでしょうか。

一方で、戊午日誌「東部沙留志」には次のようにありました。

また此川すじの事を聞に、川口の処平地しばしを過て
      マカウシ
 右の方小川。其名義前にも有し如く蕗薹多きよりして号しもの也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.690 より引用)
これは makayo-us-i で「フキノトウ・多くある・ところ」と解したようですね。makayo 関連の地名は道内各地で良く見られます。

さて、どっちが妥当なのか、あるいは他に適切な解があるのか……という話ですが、ちょっとこれだけでは判断できないなー、というのが正直なところです。今回は両論併記ということで……。

ルオマナイ川

ru-oma-nay
路・そこにある・沢
(典拠あり、類型あり)
二風谷ダムのダム湖「にぶたに湖」の西側に注ぐ支流の名前です。なんとなく、道内各所に同名の川が散在してそうな印象もありますが……まずは永田地名解を見てみましょうか。

Ru oma nai  ルヲマナイ  路ニアル川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.230 より引用)
だいたい想像通りの解が記されていましたが、続いて戊午日誌「東部沙留志」も見ておきましょうか。

また少し上りて
     ルヲマナイ
西岸小川。此辺皆崖なり。其名義は此川まゝ路有りと云儀のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.686 より引用)
あー……。そうですよね。他に解釈のしようがちょっと無いですよね。ということで、ru-oma-nay で「路・そこにある・沢」と考えれば良いようです。
地勢から推測するに、穂別の「カイカニ沢川」に出るルートとして使われたのでしょうかね。鞍部の標高が意外と高いのが難点ですが、ルートそのものは割と直線的なので、歩くのが前提の路としてはアリなのかな、と思ったりもします。

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