2016年8月6日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (362) 「芽呂川・エチナンゲップ山・里平」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

芽呂川(めろ──)

mem-oro(-pet)
泉地・その中(・川)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
新冠町西部を流れる比宇川の南支流の名前です。位置からは、東西蝦夷山川地理取調図に「メム」とある川のことを指しているように思われます。

戊午日誌「東部安都辺都誌」に次のような記載がありました。

其さま聞て志るし置に、六七丁上り
      ハンケメモベツ
      ヘンケメモベツ
 右の方山の間の小川、二すじとも同じ位。其名義は川口より少し入りて一ツの溜り有るより号し也。メムヘツなるべし。溜ることを夷言メムと云り。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.106 より引用)
どうやら mem (泉地)絡みの地名っぽいですね。「メモベツ」は mem-ot-pet で「泉地・多くある・川」あたりでしょうか。「芽呂川」だと mem-oro(-pet) で「泉地・その中(・川)」あたりなのかもしれません。

エチナンゲップ山

e-{chi-nanke}-p??
頭(水源)・{削れる}・もの
(?? = 典拠なし、類型あり)
比宇川と、同じく厚別川の東支流である里平川の間にそびえる山の名前です。東西蝦夷山川地理取調図には「イチナンケフ」とあります。また、上川町にも「エチャナンケップ川」という川がありますね。

新冠の「エチナンゲップ山」は山の名前ですが、もともとは麓を流れる川の名前だったようです。戊午日誌「東部安都辺都誌」には次のようにあります。

また本川しばしを過て
     バンケイチナンゲフ
     ヘンケイチナンゲフ
等二川とも左りの方小川。其名義昔し此処にて大漁をして魚を繋ぎ置しと云事のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.109 より引用)
前後の文を読んだ感じでは、エチャナンゲップ山の南側の左右を流れる川の名前のように思われます。バンケイチナンゲフが川下側(西側)で、ヘンケイチナンゲフが川上側(東側)の支流のようです。

「大漁をして魚を繋ぎ置し」とありますが、e-chi-yanke-p で「そこで・我ら・陸に上げる・ところ」と考えたのでしょうね。理解できない解ではありませんが、やや説話っぽい感じもします。

ということで別解を考えてみたのですが、e-{chi-nanke}-p で「頭(水源)・{削れる}・もの」というのはどうでしょう? 水源部のがけ崩れが多い川だったのではないか、と考えてみたのですが……。

里平(りびら)

ri-pira
高い・崖
(典拠あり、類型あり)
厚別川を遡ると、新冠町新和のあたりで二手に別れます。左が本流と目される厚別川で、右が(支流の)里平川です。なお、新冠町新和までは厚別川が日高・新冠両町の境界でしたが、里平川に架かる里平橋より先は里平川が両町の境界となっています。新冠町里平は、新和から 5~6 km ほど東に川を遡ったあたりの地名です。

戊午日誌「東部安都辺都誌」に記載がありました。

此処より右の方
     リイヒラ
此処左り本川よりは少し小さし。リイヒラとは高き平(ピラ)と云義なるべし。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.112 より引用)
はい、ri-pira で「高い・崖」と考えて良さそうですね。新冠町新和からしばらくは河岸段丘が広がっていますが、さらに遡ると山の中の渓谷と化します。最上流部には「リビラ大滝」という滝があるようで、水源を遡ったところが「リビラ山」です。ri-pira という名前は上流部の形容から来ているのでしょうね。

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