2015年11月28日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (301) 「パンケチン川・ルオセベツ川・パンケウレトイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

パンケチン川

panke-chin
川下の・(獣の皮を)張る
(典拠あり、類型あり)
士幌町と音更町の境界を流れる川の名前です。音更町に入ってからは音更川の西側を並行して、最終的には音更川ではなく然別川に合流します。

さて、この「パンケチン川」は中々バリエーションが豊かでして、支流には「ポンパンケチン川」があり、また西隣を流れる「ペンケチン川」には「ポンチン川」という支流もあります。それぞれ別項にするのも考えたのですが、さすがに色々とアレな感じがするので(どんな感じだ)今回はやめておきます。

決して大河川とは言えない「パンケチン川」ですが、東西蝦夷山川地理取調図には「ハンケチ」とあり、また戊午日誌には「バンゲチ」とあります。また、永田地名解にも次のように記されていました。

Panke chin   パンケ チン   下ノ獸皮ヲ乾ス處
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.311 より引用)
chin は、知里さんの小辞典には「(皮を)張る;張り枠に張る」とあります。獣の皮を張って乾かす枠のことは ket と言いますが、ket が名詞で chin が動詞……なのでしょうか。アイヌ語の地名としては「(獣の皮を)張り枠に張る・いつもする・ところ」と言った感じになる場合が多いのですが、ここは「張る!」で終わってしまっているようですね。なかなか男気のある地名です(どこがだ)。

ということで、panke-chin は「川下の・(獣の皮を)張る」と考えて良さそうです。pon-{panke-chin} は「小パンケチン川」、penke-chin は「川上の・(獣の川を)張る」となりますね。

問題なのが「ポンチン川」でして、実体は「ペンケチン川」の支流です。ですから pon-{penke-chin} と考えるのが自然なのですが、なぜか penke が抜け落ちてしまったみたいですね。「小(ペンケ)チン川」と理解すればいいのかな、と思います。ちなみにこのポンチン川、「小ペンケチン川」と言う割にはペンケチン川と同じくらいの長さを誇ります。

あと、これは全くどうでもいい情報ですが、ペンケチン川の支流には「種馬川」という名前の川もあります。ペンケチン川とパンケチン川の流域は、現在は「家畜改良センター十勝牧場」となっているみたいなのですが、だからと言って「種馬川」は無いんじゃないかと……(笑)。

ルオセベツ川

ru-o-sey(-us)-pet??
縞・ある・貝(・多くある)・川
(?? = 典拠なし、類型あり)
充実のラインナップを誇る「パンケチン川」の支流の一つです。小河川なので情報が少なかったのですが、「北海道地名誌」に記載がありました。

 ルオセペツ川 パンケチン川の右小川。路がそこから広くなる川の意か。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.595 より引用)
ふーむ。ru-o-sep-pet と読んだのでしょうか。解としてはおかしくは無いように思えますが、実際の地形に即して考えてみると少々疑問が残ります。というのも、ルオセベツ川が交通路として重宝されたとも考えづらいからなのですけどね。

他に解が無いかな……と考えてみたのですが、解ではなく貝が見つかりました(ぉぃ)。主にハマグリやあさりのことを ru-o-sey(縞・ある・貝)と呼んでいたらしいのですが、もしかして(海ではなく)川に生息する似たような貝がいた(多かった)のではないかな、と。

ということで、ru-o-sey(-us)-pet で「縞・ある・貝(・多くある)・川」だったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

ちなみに、然別川の下流部(十勝川と合流する少し手前)に「ルウセ」あるいは「ルオセ」という支流があったと記録されています。永田地名解は「曲りたる小川」という謎な解を記しているのですが、「ルオセ」をどう解したら「曲りたる小川」となるのか、ちょっと解明できませんでした。

パンケウレトイ川

panke-hure-toy(-pet?)
川下側の・赤い・土(・川)
(典拠あり、類型あり)
「種馬川」の西隣を流れる川の名前です。「ラウネナイ川」という支流もあります。古くから残っている地名(川名)のようで、「東西蝦夷山川地理取調図」にも「ハンケウレトイ」「ヘンケウレトイ」と記載がありました。

また、戊午日誌にも次のように記されていました。

またしばしを上り凡七八丁
     ハンケウレトイ
     ヘンケウレトイ
是ハンケ、ヘンケと上下に二ツの小川有。ウレはフウレの詰りし也。此処赤土崩岸なる故に号るもの也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.277 より引用)
ふむふむ。「ウレ」は hure(赤くある)では無いかと言うのですね。

永田地名解には次のようにありました。

Panke ure toi   パンケ ウレ トイ   下ノ赤土
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.312 より引用)
どうやら永田地名解も松浦武四郎の解をそのまま是であるとしたようですね。ということで、まずは panke-hure-toy(-pet?) で「川下の・赤い・土(・川)」だと考えておけば良さそうです。

ただ、個人的にはもう一つ可能性があるんじゃないかな、と思ったりしています。斜里郡小清水町の「浜小清水」の旧名が「古樋」と言うのですが、hure-toy (赤土)説と hur-tuy-i で「丘・切れる・ところ」とする説があったようなのですね。地形図を見た限りでは、hur-tuy-i と考えるに相応しい形をしているようにも見えるのです。

支流の「ラウネナイ川」もおそらく rawne-nay で「深く掘れている・沢」なので、「フレトイ」も hur-tuy-i丘・切れる・ところ)を推したいところなのですが……。

北海道のアイヌ語地名 (235) 「浜小清水・蒼瑁・止別」

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