2015年9月13日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (282) 「ヤイタイ島・ウグイ川・フップシ岳」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ヤイタイ島

yay-ni-tay-mosir
白楊・の木・林・島
(典拠あり、類型あり)
阿寒湖と言えばとりあえず「マリモ」という印象がありますが、実は島が四つもあるのはあまり知られていない……ような気がします(自分が知らなかっただけかも)。ヤイタイ島は阿寒湖の西部にあります(あとは北部の「チュウルイ島」と、南部の「大島」「小島」)。

東西蝦夷山川地理取調図を見ると、「ヤイニタイモシリ」という島があることがわかります。どうやらこれが現在の「ヤイタイ島」のようです。

永田地名解にも「ヤイニタイ モシリ」で記述がありました。

Yainitai moshiri  ヤイニタイ モシリ   白楊林ノ島
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.338 より引用)
ということで、どうやら yay-ni-tay-mosir という島名のようです。yay-ni というアイヌ語の意味を知里さんの「植物編」で調べてみたところ、

§318. デロ ドロノキ Populus Maximowiczii Henry
(1) yay-ni (yáy-ni)「やイ・ニ」[ただの・木] 莖 《長萬部,幌別,穂別,沙流,千歳》《A 沙流・鵡川・千歳・有珠》
注 1. ──造化の神がこの木で火を作ろうとしたが,だめだった。それで“ただ
の木”とゆう。→§1,§298.
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.186 より引用)
この記載と、

§319. ヤマナラシ ハコヤナギ Populus Sieboldii Miq.
(3) yayni (yáy-ni)「やィニ」 [yay(ただの)ni(木)] 莖 《G, p. 15; E, p. 432》
(參考)“北海道「アイヌ」ハ樹皮ヲ剝キ細長ク削テ傷口ニ附ク”(G, p. 49)。
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.188 より引用)
この記載が見つかりました。さて、「ドロノキ」が正しいのか「ヤマナラシ」が正しいのか、どちらでしょう……と思ったのですが、どうやら「白楊」自体が「ヤマナラシの別名」であり、なおかつ「ドロノキの別名」なのだそうで。

ということらしいので、yay-ni-tay-mosir は「白楊・の木・林・島」としておきます(逃げたな!)。

ウグイ川

o-ota-un-pe??
川尻・砂浜・持つ・もの
(?? = 典拠なし、類型あり)
阿寒湖の南にある「白湯山」あるいは「フレベツ岳」のあたりに源を発し、阿寒湖温泉の西側で阿寒湖に注ぐ川の名前です。「ウグイ」は川魚の名前ですが、アイヌ語では supun と言います。ということなので、どうやらこの「ウグイ川」は和名のようですね。

明治期の地形図を見てみると、現在の「ウグイ川」の場所に「オタウンナイ川」と書かれています。どうやらどこかのタイミングで「オタウンナイ川」が「ウグイ川」に変わってしまったようなのですが、1980 年代初頭の土地利用図にも「オタウンナイ川」と書かれているので、「ウグイ川」に名前が変わったのは比較的最近(ここ 30 年以内)のようです。何故名前を変えちゃったのでしょうね……。

更に昔はどうだったのだろう……と思って「東西蝦夷山川地理取調図」を見てみたところ、「オタウンナイ川」の近くに「ヲヽタンベ」が見つかりました(ただ、「ヲヽタンベ」は阿寒湖スキー場駐車場の北西を流れていた川だった可能性もあります)。

「ヲヽタンベ」は、おそらく o-ota-un-pe で「川尻・砂浜・持つ・もの」あたりだったのではないかと思います。これがどこかのタイミングで ota-un-nay (砂浜・持つ・沢)に変化し、もしかしたら隣のホロチエフンナイ(poro-{chep-un-nay} で「大・{魚・いる・沢}」あたりかと)の名前になってしまい、この 30 年ほどの間に「ウグイ川」になってしまった、といったところでしょうか。人に歴史ありですが、川にも歴史があるってことですね。

フップシ岳

hup-us-nupuri??
トドマツ・群生する・山
(?? = 典拠なし、類型あり)
釧北峠に向かう国道 240 号と、足寄峠に向かう国道 241 号が分岐するあたりの南側に聳える山の名前です。支笏湖の南側にも「風不死岳」という山がありましたね。

阿寒のフップシ岳はご覧のとおりカタカナなのですが、国道には「仏夫子橋」と書いて「フップシ橋」と読ませる橋がありました。あるいは「仏夫子」という漢字を当てようとしていた時期があったのかもしれません。あと同じく旧・阿寒町には「布伏内」という場所もあるのですが、これは雄別炭鉱に近いところで、フップシ岳とは随分と離れたところです(同じ阿寒町内ではありますが)。

「フップシ岳」ですが、素直に考えると hup-us-nupuri で「トドマツ・群生する・山」となりそうです。ただ、ちょっと気になったのが「風不死岳」との地理的な類似性です。

実は、hup には「トドマツ」という意味のほかにも「腫れ物」(おでき)という意味もあるのですね。「風不死岳」も「フップシ岳」も、湖(支笏湖または阿寒湖)の近くに聳える準・独立峰という類似点があります。さらに言うと、樽前山あるいは雌阿寒岳によって形成された緩やかな斜面にできた「吹き出物」のような山でもあるのですね。

ということで、hup-us-nupuri を「腫れ物・ある・山」と解釈することもできたりしないかなぁ……というお話でした。

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