(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
チナナ川
(? = 典拠あり、類型未確認)
標津川の南側、中標津の市街地の東側を流れる支流の名前です。ちょっと変わった名前ですが、松浦武四郎の「戊午日誌」に記載がありました。チナヽとは昔し此処まで子モロ土人住して、皆飯料の鮭を取りてチナヽといへるものに切懸しによつて号るとかや。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.627 より引用)
ふむふむ。どうやら「チナナ」という単語があるようで、萱野さんの辞書には次のようにありました。チナナ【cinana】
干し魚: ほっちゃりの乾いた物.
(萱野茂「萱野茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.310 より引用)
今度は「ほっちゃり」って何? という話になるのですが……(汗)。どうやら、遡上して産卵を終えた後の鮭のことを「ほっちゃり」と言うのだそうで。産卵を終えた後の鮭は「脂の抜けきった」状態らしく、あまり美味しいものでは無いのだそうです。昔のアイヌたちはそういった鮭を干物にして保存食にしていたようですね。というわけで、「チナナ」は chinana で「鮭の干物」だと考えられます。もともとは「チナナをいつも作るところ」くらいの地名があったのでしょうが、いつしか下略されて「チナナ」に落ち着いた、といったところなのでしょう。
タワラマップ川
(? = 典拠あるが疑わしい、類型多数)
中標津町内を走る国道 272 号は、途中で「りんどう大橋」という橋で川を渡るのですが、この川の名前が「タワラマップ川」です。そう言えば、美瑛にも「俵真布」という地名がありましたね。永田地名解には次のように記載がありました。
Hushko taoromap フㇱュコ タオロマㇷ゚ 高處ナル舊川「舊」は「旧」の旧字体ですから、「高処なる旧川」と書かれていることになりますね。なお、まだ続きがあります。
「タオル」ハ河岸ノ高處松浦地圖ニハ只「アンタロマプ」トアリテ新舊ノ名ナシ蓋シ流域ヲ變シタルナラン
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.378 より引用)
えー……(汗)。書き直すとこんな感じです。「タオル」は河岸の高処、松浦地図には只「アンタロマプ」とありて新旧の名なし、けだし流域を変したるならん
永田地名解は、taor-oma-p で「川岸の高所・ある・もの」ではないかと考えたようですね。概ね同意なのですが、戊午日誌に「アシタロマフ」とあり、あるいは「東西蝦夷山川地理取調図」に「アンタロマプ」とあるのが少々気になります。
「アンタロマプ」だと上川の「安足間」と同じで、antar-oma-p で「淵・ある・もの」と考えられそうなのですが、現地の地形を考えると as-taor-oma-p で「立つ・川岸の高所・ある・もの」のほうがしっくり来るような気がします(地形図をご覧になるとお分かりかと思いますが、結構台地を深くえぐって流れる川なのです)。
一方で異説もありまして、中標津町郷土館の Web ページ( http://www.nakashibetsu.jp/kyoudokan_web/r12-1.htm )には、「『林の・内に・ある・川』と考えたい、と町史に掲載されている。」とあります。なるほど、tay-oro-oma-p と考えたのですね。これだと「林・その中・ある・もの(川)」となります。これは戊午日誌の「木の沢山に有る」という解をベースにしたものだと思いますが、さて、どちらが正解なんでしょうね。
なお、中標津町郷土館の Web ページによると、戊午日誌にある「アシタロマフ」が現在の「タワラマップ川」で、「フシコアシタロマフ」が現在の「ますみ川」であるとしています。「ますみ川」という名前もすんごく気になるんですが、由来はさっぱりわかりませんでした……(汗)。
ポンリュウル川
(典拠あり、類型あり)
中標津町東当幌のあたりを流れる標津川の支流の名前です。地理院地図では青い線が引かれていない(川として扱われていない)という、かなり気の毒な扱いをされていますが……(汗)。上流には「オンネリウル川」もありますね。永田地名解には次のように記されています。
Pon ri uru ポン リ ウル 小高キ丘
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.378 より引用)
なるほどねー。一応注釈もありまして、「ウル」ハ「フル」ノ通音
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.378 より引用)
どことなく「バンザーイ♪」と歌いたくなるような感じもしますね(しません)。えーと、pon-ri-(h)ur(-pet) で「小さい・高い・丘(・川)」なのでしょうね。ガッツだぜ!!(違)www.bojan.net
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