(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
武佐(むさ)
(? = 典拠あるが疑わしい、類型多数)
中標津町北部の集落の名前で、標津川の支流に同名の川があります。まずは永田地名解を見てみましょう。
Musa ムサ ?うむ、久々に出ましたね(笑)。では、続いて更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。
武佐(むさ)
中標津町の部落。標津線の駅名は上武佐。標津川の支流ムサ川からでたと思うが、ムサ或はモサの意味は明らかでない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.277 より引用)
うーむ。またしても「?」なんですね。ちなみにまだ続きがあります。釧路市の町名や七飯町の川名にも同じものがあり、ム・サッでつまり乾くの意という説もある。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.277 より引用)
「つまり乾く」……。なんだか良くわからない解が出てきました。あまりに良くわからないので、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょうか。武佐の語義は,永田地名解でも,北海道駅名の起源でも不明とされている。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.232 より引用)
そうなんですよねぇ。「北海道駅名の起源」も見てみたのですが、「アイヌ語の『ムサ』からとったもので、」の一文で片付けられていました。バチラー辞典では,モサ,モセ,ムセは同じように「いらくさ」とあり,モサ・ハイという言葉も採録されている。そのモサハイ(mosa-hai)は知里博士植物篇のモセ・ハイ(mose-hay いらくさの・繊維)と同じ語義であろう。それから見ると,武佐は「いらくさ」の意だったのかもしれない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.232 より引用)
おお、謎な解釈が多いことには定評のあるバチェラーさんが、ここでは割とマトモな解を出していたのですね。「ムサ」は、古い資料では「モサフト」と記されているのですが、おそらくは mose が転訛したのでしょう。mose-us-pet あたりの川名から -us が中略されたのかな、と思ったりします。意味は「イラクサ(・多くある)・川」でしょうか。クテクンベツ川
(典拠あり、類型あり)
武佐川第一の支流の名前です。今回も山田秀三さんの「北海道の地名」から。クテクンベツ川
イロンネベツ川のすぐ上にある武佐川北支流(流長18キロ)。永田地名解は「クテㇰ・ウン・ペッ kutek-un-pet(柵川)。柵を設けて鹿熊を取る所。クテクは柵なり」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.233 より引用)
なるほど。kutek-un-pet をそのまま発音したら「クテクンペッ」になりますね。さて kutek って何だったかな? という話ですが……クテㇰは仕掛け弓を置いて,そこに鹿等を導くように柵を作った処の称であった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.233 より引用)
ふむふむ。「シュラ川」の回に出てきた「機檻」なるものの正体がこれだったりするのでしょうか。kutek という単語自体は「木で作った低い柵」と言う意味だそうですが、ここでは鹿や熊を仕留めるための仕掛けがある柵のことを指しているようです。kutek-un-pet で「柵・ある・川」と解釈できそうですね。ペウレベツ川
(?? = 典拠なし、類型あり)
武佐川が標津川と合流する直前で、武佐川と合流する支流の名前です。武佐川は、河口から水源を望んで右側に位置する支流が多いのですが、この「ペウレベツ川」は珍しい左側の支流です。「ペウレベツ」は、おそらく pewre-pet ではないかと考えられます。pewre は onne の対義語で、「若い」という意味です。ですから、pewre-pet は「若い・川」となりそうですね。
この川のどの辺が「若い」のかは良くわかりませんが、標津川と武佐川に挟まれた狭い流域しか持たない川なので、雨が降れば水が流れるものの、すぐに流れが無くなってしまうような川だったんじゃないかな、と思ったりします。もしかしたら、こういった特性を「若い」と呼んだのかも知れませんね。
ちなみに、この「ペウレベツ川」ですが、戊午日誌に「ケトイ」とある川のことではないか、との説があります。「ケトイ」だと ket-o-i で「獣皮を張って乾かす枠・そこにある・ところ」でしょうか。
あと、ちょっと解せない話なのですが、OpenStreetMap ではこの川が「レイタンチ川」である、とされています。……果たしてどれが正解なのか、良くわからなくなってきましたね(汗)。
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