(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
チトカンベ岩
(?? = 典拠なし、類型あり)
羅臼町昆布浜から瀬石に向かう途中に「セセキの滝」という滝があるのですが、セセキの滝の北隣にある変質安山岩の岩が「チトカンベ岩」と言うのだそうです。この岩の名前がアイヌ語に由来するならば、という話になるのですが、chi-tukan-pe で「我ら・射る・もの」ではないでしょうか。
ちょっと長いですが、知里さんの「──小辞典」から引用しておきますね。
chi-tukan チと゜カン ((不完)) 「われら・射る」の意。古くアイヌは狩や漁や戦に出る時,弓占を行った。そういう所に「チと゜カヌシ」(chi-tukan-us-i「われらがいつも矢を射る所」),「チと゜カヌシナイ」「chi-tukan-us-nay「われらがいつも矢を射る沢」),「チと゜カンピラ」(chi-tukan-pira われらがいつも矢を射る崖),「チと゜カイシュマ」(chi-tukay-suma「われらいつも矢を射る岩)などの地名が残っている。そういう所に古く部落の祭場があったと見られる。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.21 より引用)※原文ママ
chi-tukan 系の地名としては、上川と白滝の間に「チトカニウシ山」がありましたが、この「チトカンベ岩」もその系列ではないかな、と考えています。
瀬石(せせき)
(典拠あり、類型あり)
「セセキの滝」から 700 m ほど北に進むと「瀬石温泉」で有名な「瀬石」の集落があります。この地名はあまりにそのままなのですが、一応、山田秀三さんの「北海道の地名」を見ておきましょうか。瀬石 せせき
羅臼市街と知床岬の中間にある海岸の地名。観光パンフレットを見ると「野趣ゆたかなセセキ温泉」として,海岸を岩で囲い,多勢で楽しそうに混浴している写真が載っている。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.227 より引用)
あっはっは。素敵なワンポイントアドバイスをありがとうございます。さて、気になる「瀬石」の意味ですが……セセキ(sesek-i)は「温泉」の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.227 より引用)
はい。あまりにそのまんまでしたね。「温泉」を意味するアイヌ語は、日本語由来と思われる yu が使われるケースもあるのですが、このあたりでは yu ではなく seseki が使われていたようです。seseki のほうがアイヌ語オリジナルなのか、それとも……?相泊(あいどまり)
瀬石から北東に進むと相泊にやってきます。知床の東海岸を車で進むことができるのは、この相泊までです(現在、瀬石と相泊の間で崖崩れ?があったらしく、瀬石から相泊の間が通行止めになっているようですが)。
では、今回は「羅臼町史」を見てみましょう。
相 泊
○相泊(アイドマリ)
改正前と同一名称である。また合泊の名称を用いられてもいる。半島突端附近の避難港としても最適で、現在漁港指定を申請中でもある。
(羅臼町史編纂委員会・編「羅臼町史」p.59 より引用)
ふむふむ、なるほど。ところで「アイドマリ」の意味が気になるのですが……夷名で「細き流れのある湾」との意味である。
(羅臼町史編纂委員会・編「羅臼町史」p.59 より引用)
細き……流れの……ある……湾? ay には「矢」という意味がありますが、「細き流れのある」という解釈ができるかどうかは……謎ですね。さて、ここで久しぶりに更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」にお出ましいただきましょう。
相泊(あいどまり)
アイ(北風) のときの舟入澗。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.282 より引用)
ふぅ~む。確かに相泊のあたりは北側に山の尾根が張り出していて、北風を避けられる地形になっています。また、北風のことを「アイ」と呼ぶのは、今でも道内各地で見られる方言? のようです(参考: http://www6.kaiho.mlit.go.jp/01kanku/otaru/info/service/kanntennbouki.pdf)。服部四郎「アイヌ語方言辞典」によると、「北風」を意味するアイヌ語は orepunpe(美幌方言)と言うようで、つまりは「アイドマリ」はどっちも日本語由来となるのかも知れません。「北風・泊地」と考えるのが自然な感じがします。
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