丸万(まるまん)
とりあえず、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。
丸万(まるまん)
網走市の字名。釧網線北浜駅から南に入った部落。
ここを流れて濤沸湖に入る、サルマオマナイという川の名からでたものというが、
サルマはサル・オマ(葦原にある)であるのに、更にオマがつくのはおかしい。
サル・オマン・ナイで葦原に行く川ではないと思う。この川は奥まで葦原がある。
ふむふむ。sar-oman-nay ではないか、というのが更科さんの説ですね。ただ、「サㇽオマンナイ」が「マルマン」になったとすると、「サ」が「マ」に化けたことになります。
ちなみに、知里さんの「網走郡内アイヌ語地名解」には次のようにありました。
(409) サルマオマナイ サル・パ・オマ・ナイの転訛。サル(葦原),パ( のかみ),オマ(にある),ナイ(川)。今,丸万川。
ところが……
ところが……。「角川──」(略──)にちょっと気になる記述を見付けました。まるまん 丸万 <網走市>
〔近代〕昭和13年~現在の行政字名。はじめ網走町,昭和22年からは網走市の行政字。もとは網走町大字濤沸(とうふつ)村・娜寄(なよろ)村・藻琴村・網走村の各一部,藻琴原野・モコト原野。
地名の由来はアイヌ語のマルオマンプト(内陸に向かって通じる道の河口)による(丸万実豊部落史)。
「マルオマンプト」も「マルマフト」も、そのままでは意味不明ですが、「内陸に向かって通じる道の河口」という解釈からそれっぽいものを考えてみると……。そうですね、mak-oman-putu だった可能性は考えられないでしょうか? これだと「山手・行く・河口」となりますし、「ㇰ」が「ル」に転訛しただけの形と言えますから、「サルパオマナイ」→「マルマン」よりはあり得るんじゃ無いかな、と思ったりも……。
もっとも、そうなると知里さんはどこから「サルパオマナイ」という地名を拾ってきたのかという謎が生まれてくるのですが、これは……謎ですね(汗)。
ウカルシュベツ川
永田地名解には次のようにあります。
Ukar’ush pet ウカルㇱュ ペッ 椎打ノ遊戯セシ處 沼ニ注グえぇと、「棒で叩き合う遊びをしたところ」という意味だということでしょうか。なんとも地名説話っぽい匂いがプンプンしますね。
知里さんの「網走郡内アイヌ語地名解」には、次のようにあります。
(417) ウカルシベツ(Ukar-ush-pet) ウカル(棍棒で叩き合う,決闘する),ウㇱ(いつも……する),ペッ(川)。「いつも決闘する川」の義。こゝで始終山争いがあつたという。
おまけ
ちなみに、u-kar については、知里さんの「樺太アイヌの説話(一)」の脚注に詳しく記載されています。(41) 「ウ・カラ」。ウは「お互」,カラは「打つ」,即ち原義は「お互が打つ」「打ち合ふ」「打ち合ひ」の意味である。この語は, 今では,「シュツ゚」又は「シツ゚」と称する野球のバットに似た棍棒で打ち合ふ特別の打ち合ひを意味してゐる。この棍棒には,造り方と材料,使用の方法と使用の目的,等によって,種々の形式と名称があった様である。
ウカラは,前に述べた如く,棍棒(シツ゚)を以てする打ち合ひであるが,それは何の為に行はれたかと云ふと,(一)紛争が口論(「チャランケ」)のみで決し兼ねた場合,それを解決する最後の手段として用ひられ, また(二)「鬱憤ありて打果すほどの事に及びたる時,あつかひの者入て和談せしめ遺恨なきために互に打て鬱憤を散ずる」(『北海随筆』),即ち和解の手段として用ひられるのである。(三)試合の方法としても用ひた(→註4)。本篇の場合などその一例である。(四)後にはそれがスポーツ化し,更に興行的な行事にまで化した。
2021/5 追記
道内各所に ukur(-kina) 関連の地名があり、例えば新冠町には「受乞」という地名がかつて存在したことがわかってきました。「受乞」は ukur(-kina)-kar-p で「タチギボウシ・採る・ところ」ではないか、と考えられています。となると ukuri(-kina)-kar-us-pet も「タチギボウシ・採る・いつもする・川」と考えられそうです。
浦士別(うらしべつ)
今回はあまり悩まずに進められそうです。まずは更科さんの「アイヌ語地名解」から。
浦士別川(うらしべつがわ)
浜小清水に近い濤沸湖の南対岸に入る川、小清水町と網走市の境界。
アイヌ語でウライ・ウㇱ・ペッ(簗の多い川)と呼んだところ、
アイヌの酋長噺の中に、ウラシペッウンクルという有名な酋長があり、その酋長のいた村がこの簗の多い川岸にあったという。
浦士別 うらしべつ
濤沸湖の東南隅に注ぐ川名,地名。浦士別川はこの湖水に注ぐ最大の川で,網走市,小清水町の境界,昔は聞こえた大酋長がいた処である。
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