鷲府(わしっぷ)
深く・ある・麓
明治期の地形図では、現在の「上ワシップ川」に相当する川が「ペンケオワシ」、「下ワシップ川」に相当する川が「パンケオワシ」とされています。これだと panke-o-has(-pet) で「川下の・河口・柴(・川)」と解釈できそうです。
ただ、更に時代を遡っていくと厄介なことになってまして……。「東西蝦夷山川地理取調図」を見ると、「パンケオワシ」「ペンケオワシ」のあったところに「ラワシユツ」「ヘンケラワシユツ」とあります。これを has-pet と解釈するのは少し無理がありそうな感じもします。確かに「ラ」が「ヲ」の誤記だとすれば解決しそうな感じもしますが、最後の「シユツ」にも違和感が残ります。
「ラワシユツ」を素直に読み解いてみると、raw-an-sut あたりでしょうか。raw-an は「螺湾」と同じく「底のところ・ある」かなぁ、と思います。sut は「根もと」あるいは「麓」なのですが、これだと意味が通るような通らないような……。raw-an を rawne と同様に「深くある」と解釈してしまえば「深く・ある・麓」となり、これだと現実の地名にも即しているっぽい感じです。
「ラワシユツ」が「オワシ」に変化したのは、うーん、やっぱり「ラ」を「ヲ」と誤記した……のでしょうか。もっともこの説にも難点はあって、明治期の地形図にも「ヲワシ」ではなくて「オワシ」とあるのですよね。ただ、ちらっと眺めた限りでは、足寄のあたりでは「ヲ」の使用例が無いようにも見えるので、「ヲ」と「オ」の異同については不問に処してもいいのかも知れません。
愛冠(あいかっぷ)
できない・崖
愛 冠(あいかっぶ)
所在地(十勝国)足寄郡足寄町
開 駅 昭和27年3月25日 (客)
起 源 アイヌ語の「アイカップ・ピラ」(矢の届かぬがけ)から出たもので、猟に行くとき、がけに矢を射かけて運をためす風習があるが、ここはその矢が容易にがけに達しなかったところから、名づけられたといわれている。
知里真志保の「地名アイヌ語小辞典」には、次のように記されています。
aykap あィカㇷ゚ ((完)) できない; できなくなる; とどかない; とどかなくなる。(対→askay)。
──この地名は方々にあり,けわしくて通りぬけられぬような岬をさして云っている。そういう岬の上には,古く神を祭る幣場があり,漁や狩或は戦争に出かけるさい,そこの神に祈って,そこの崖とか岩とかに矢を射て運勢を試す土俗があったらしい。
その際,矢のとどかなかった所に「あィカㇷ゚」という名がつき, 多く戦争の際に矢がとどかなかったというような伝説がついている。
カムイロキ山
神様・(そこに・)座している・ところ
山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。
カムイロキ山
足寄市街の北にある独立山で,街道(国道 242 号線,陸別国道)はそのすぐ西裾を通っている。永田地名解は「カムイ・ロキ(神座)。熊の穴を掘り越年する処」と書いた。
これはカムイ・ロク・イ(kamui-rok-i 神様が・坐っていらっしゃる・処)の意。rok は a (坐る)の複数形。敬語として複数形が使われたと思われる。正確には e-rok といったのであろうか。
ところで、永田地名解の話に戻るのですが、
十勝川上流にも同じカムイロキがある。
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