2014年3月9日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (183) 「十梨別・ラウネベツ川・パンケシュル川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

十梨別(となしべつ)

tunas-pet?
速い・川

(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
南富良野町西部、金山駅から更に少し西側の地名です(但し、現在の「金山」のあたりも昔は「十梨別」だったようです)。近くに「トナシベツ川」も流れています。

では、まずは更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

十梨別は永田氏の地名解ではトナシュペッで「早川」と解されているが、急ぐという言葉にトアシというのがあるのでそう訳したかと思うが、疑問が残る。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.122 より引用)
この「トアシ」は tunas のことでしょうね。moyre(遅くなる)の反対語です。「疑問が残る」としていた更科さんですが、次のページでは、

 トナシベッ川
 昔砂金を採集した川、流れの早い川の意という。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.123 より引用)
え……? これはどういうこと……?(汗) 南富良野町の「トナシベツ」という川は一つしか無いと思うのですが、これはもしかして現在の「金の沢川」のことなんでしょうか。前後の文脈から考えるとそう取れなくもありません。

何だか良くわからなくなってきましたが、山田秀三さんは次のように記していました。

永田地名解は「トゥナシペッ tunash-pet。早・川」と書いた。北海道駅名の起源は昭和25年版までは永田説で書いて来たが,29年版で「トゥニ・ウシ・ペッ(柏樹・多い・川)」と新説を立てた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.72 より引用)
柏の木は、北海道の西南部では tunni と言い、北東部では komuni と言ったようです。「──駅名の起源」説は tunni-us-pet だと言うのですが、果たして……。

 この川の川口で見ると,この近辺の諸川よりも急流である。永田地名解の書いた「早い・川」でいいのではなかろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.72 より引用)
これまた判断が難しいですね……。今日のところは tunas-pet で「速い・川」説を採っておこうと思います。

ラウネベツ川

rawne-pet
深くある・川

(典拠あり、類型多数)
トナシベツ川の支流で、近くには「老根別山」という山もあります。「老根別山」の正確な読みはわかりませんが(「ろうねべつ」かな?)、おそらく由来は同じものでしょう。

では、今回も更科さんの「アイヌ語地名解」から。

 ラウネベツ川
 トナシベツ川の右支流。ラウネは両岸の高いの意。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.123 より引用)
あれ……? もう終わりですか(汗)。はい。rawne-pet で「深くある・川」と見て良さそうですね。

パンケシュル川

panke-siuri(-pet)
川下の・深山犬桜(・川)

(典拠あり、類型あり)
国道 237 号は、パンケアラヤ川沿いを遡って金山トンネルを越えるとパンケシュル川沿いを占冠村に向かって下ってゆきます。パンケシュル川は道東道占冠 PA のあたりで鵡川と合流します。つまり、全流域が占冠村にあるということになりますね。

さて、これもちょっと類を見ない地名のように思えるのですが、山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のようにあります。

パンケ,ペンケはいうまでもなく下の,上のであるが,シュルに相当する言葉が見当たらない。平賀さだも媼は「ほんとうはシウリという処だ。シウリの木が専門に生えていた山だ」と語られた。シウリ(siuri)は日本語でも「しゆうり」で,「みやまいぬざくら」ともいう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.374 より引用)
ふーむ……。panke-siuri(-pet) で「川下の・深山犬桜(・川)」ですか……。先人の解を殊更疑うのも良くないですが、ちょっと慎重に検討してもいいんじゃないかなーと思ったりもします。

標津川の支流には「シュラ川」という川があったようで、永田方正は「機檻川」という、これまた謎な解をつけています。

また、標津ではなく士別のほうには、surku-ta-us-pet という川があったようで、これは「トリカブト・採る・いつもする・川」といった意味です。「パンケシュルクタウㇱペッ」が長いので「パンケシュル」になったという可能性もゼロではありませんが、明治期の地図でも「パンケシュル」となっているので、ちょっと強引な感も否めません。

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