2014年2月15日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (176) 「雨紛・辺別・宇莫別」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

雨紛(うぶん)

upun??1
吹雪
(h)up-un-i??2
トドマツ・そこにある・ところ

(??1 = 典拠あるが疑わしい、類型未確認)(??2 = 典拠未確認、類型あり)
旭川市神楽岡の西側、美瑛川の向かい側の地名です。同名の川もあり、美瑛川に注いでいます。あまり類を見ない地名ですが、果たしてその由来は……。

まずは、山田秀三さんの「北海道の地名」から。

永田地名解は「ウプン upun。雨雪飛ぶ処。ウプンの水源なる山より雨雪を吹飛すを以て名く」と書いた。ウプンは吹雪の意(地名アイヌ語小辞典)。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.110 より引用)
いやー、盛大な孫引きで申し訳ありません。どうやら元々は「うぷん」だったのですね(濁音では無くて半濁音)。そして意味は upun で「吹雪」だと言うのですが……。セカンドオピニオンも見てみましょうか。

美瑛川左支流雨紛川から出た地名で、ウプンは吹雪の意味があるので、曇ると奥が見えなくなる意だという説もある。
ふむふむ、相変わらずちょっと謎な文章ですが……。「吹雪の意味があるので」は良いのですが、「曇ると奥が見えなくなる」というのは……?

なんか納得がいかないので、サードオピニオンを……(ぉぃ)。

 ウプン(Upun) 雨紛川(うぷんがわ)。「ウプン」は吹雪の義。そこで「水源ナル山ヨリ雨雪ヲ吹飛スヲ以テ名ク」(永田氏『地名解』)という説も生れる。またこの沢は曇ると吹雪したように奥が見えなくなるのでこう名づけたと説く人もある。
知里真志保「上川郡アイヌ語地名解」平凡社『知里真志保著作集 3』に所収)
はっはー。どうやら更科さんは知里さんの解を引いているようですね。

永田方正、知里真志保、更科源蔵、山田秀三といった斯界の大家が、全員「吹雪」説を唱えている中で別の解を考えるのも烏滸がましい限りなのですが、もともとは (h)up-un-i で「トドマツ・そこにある・ところ」だったという可能性は考えられないでしょうか。よーく見ると、東西蝦夷山川取調図にも「ウフニ」と書いてあるように見えます(!)。

辺別(べべつ)

pe-pet
水・川

(典拠あり、類型あり)
辺別川は、JR 富良野線の西神楽駅のあたりで美瑛川と合流する河川の名前です。では、今回も「北海道の地名」から。

旭川市史の解は「ペペッ pe-pet(水・川)。水量豊かで流れの早い川だという」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.110 より引用)
ふむふむ。今回も孫引き全開ですが、出どころは知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」ですね。確認しましたが、確かにそう書いてあります。pe-pet で「水・川」という解釈で良さそうです。

ちなみに、こんな話もあります。

 西神楽(にしかぐら)
所在地 旭川市
開 駅 明治32年 9 月 1 日(北海道鉄道部)
起 源 もと「辺別(べべつ)」といい、アイヌ語の「ペッペッ」(小川の集合) から出たものであるが、ごろが悪いので、昭和17年10月 1 日、神楽村の西部にあることから「西神楽」と改めた。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.134 より引用)
なーんのことは無い、現在の西神楽駅の旧名が「辺別駅」だったのでした。まぁ、確かにちょっと読みづらいですし、「神楽」は字画も良さそうなので、改名したくなる気持ちもわからないでもないですが……。

宇莫別(うばくべつ)

u-pak-pet?
互いに・匹敵する・川

(? = 典拠あり、類型未確認)
宇莫別川は、JR 富良野線の北美瑛駅のあたりで美瑛川と合流する河川の名前です(あれ?)。では、今回も「北海道の地名」から。

旭川市史の解は「ウ・パク・ペッ u-pak-pet(相・匹敵する・川)」と書いた。合流点で見ると,水量は辺別本流の方が多いが,流長はほぼ匹敵している川なのであった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.110 より引用)
ふむふむ。今回も孫引き全開ですが、出どころは知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」d(ry

気を取り直して。この u-pak-pet という地名(川名)ですが、あまり他には類を見ないような感じがします。「互いに・匹敵する・川」だと言うのですが……。

ちょいと自信が持てないので、セカンドオピニオンいってみましょうか。

宇莫別川というのはこの五本の川のうちの真中を流れ、辺別川に合流して、その途中上宇莫別、中宇莫別、下宇莫別の三つの部落を抱いている。地名の語源はおたがいに(ウ)頭(パ)飲む(ク)川(ぺ)ということになるが、
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.128 より引用)
おおっと、意見が分かれましたね。しかも、まだ続きがあるようなのですが……

あるいは全然別の意味かもわからない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.128 より引用)
……(汗)。久々にロックな地名解が出ましたね。まだ続きが……

お互いに頭を飲む川ということだとすればどういう事をさすのであろう。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.128 より引用)
……そんなこと言われても(汗)。とりあえず、u-pa-ku-pet ということでしょうか。確かに「互いに・頭・飲む・川」となりますね。

本来は禁じ手なのですが、この解から現実の地形を考えてみると……。辺別川と宇莫別川は、どちらもトムラウシ(山)のあたりを水源としています。トムラウシから北西に延びる緩やかな尾根があるのですが、北麓を辺別川が、南麓を宇莫別川が流れています。同じ尾根から水を奪い合う? ことを「互いに・頭・飲む」と解釈するというのは……。あるいは全然別の意味かもわかりませんが(ぉぃ)。

前の記事続きを読む

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International


0 件のコメント:

コメントを投稿