2013年10月6日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (148) 「久種湖・大沢川・浜中」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

久種湖(くしゅこ)

kus-un-to??
向こう・そこにある・沼
(?? = 典拠未確認、類型あり)
礼文島の北部、船泊集落の南側に位置する湖です。残念ながら、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には記述が無いので、久々に Wikipedia でも見てみましょうか。

アイヌ語で「山越えする沼」の意。
(Wikipedia 日本語版「久種湖」より引用)
ふむふむ。当たらずとも遠からずかな、と思わせます。もちろん沼が山越えするわけは無いので、もう少し適切な解釈があって然るべきとは思うわけですが……。

おそらく、kus-to で「山越えする・沼」と解釈したのだと思いますが、これは kus-un-to で「向こう・そこにある・沼」と考えたほうが自然かなぁ、と思います。

大沢川(おおさわがわ)

poro-nay?
大きな・川
(? = 典拠未確認、類型多数)
船泊と浜中の間に流れている川の名前なのですが、国土地理院の地図には「大沢川(ホロナイ川)」と書かれています。これはまたサービス精神旺盛な……(笑)。

はい、この川の由来はもう明白ですね。poro-nay で「大きな・川」でしょう。更科さん流の解釈では「大切な・川」となりますね。

浜中(はまなか)

船泊の西隣にある集落の名前です。道内の「浜中」は、往々にしてアイヌ語地名「オタノシケ」の和訳であるケースが多いのですが……。

更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

船泊港と江戸屋との間というよりも、金田ノ岬とスコトン岬に抱かれた内海の一番奥まったところの地名で、この曲がった浜の中ごろであるから日本人が名付けたものらしい。他の地方にあるオタノシケ(砂浜の中央)と呼んだのを訳したのでない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.216-217 より引用)
おおっと。「オタノシケ」語源説はあっさり否定されました。

古い地図にはオタノシケとも浜中とも記入されておらず、浜中の東を流れている川をポロナイ( 大切な川)という地名がついており、浜中の西のはずれには、オチヤラセナイとシヨナイポという小さな二つの流れがあるだけである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.217 より引用)
ふむふむ。今の「浜中」のあたりの小字としては「ヲチヤラセナイ」「シヨンナイホ」と「ペシトカリ」などの名前が見えます。というわけなので、それぞれ見ていきましょう。

ヲチヤラセナイ

o-charse-nay
河口・滑り落ちている・小川
(典拠あり、類型多数)
これは、o-charse-nay で「河口・滑り落ちている・小川」ですね。同名の地名が道内各所に残されています。

シヨンナイホ

so-un-nay-po?
滝・ある・川・小さな
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「シヨナイポ」あるいは「シヨンナイホ」なのですが、これは so-un-nay-po で「滝・ある・川・小さな」と考えられそうです。po は指小辞で、樺太の地名に良く見られるのですが、札幌近郊の「苗穂」も nay-po だったかと思います。

ペシトカリ

pes-tukari??
崖・の手前
(?? = 典拠未確認、類型あり)
これは pes-tukari あたりでしょうか。意味は「崖・の手前」となります。「崖」と言えば pira という単語があるのですが、知里さんの「地名アイヌ語小辞典」によると、

カラフトではピラという語は使われぬ。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.89 より引用)
とあります。礼文も pet より nay が多い土地柄ですし、樺太の地名とも傾向が似ている印象がありますね。

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