2013年6月30日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (120) 「茶志内・奈井江・神威(歌志内市)」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

茶志内(ちゃしない)

chasi-(un-)nay?
砦(・ある)・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
アイヌ語で「チャシ」と言えば「砦」のことですから、「チャシナイ」は「砦・川」と解するのがごく自然……なのですが。山田秀三さんの「北海道の地名」を見ていきましょうか。

従来の貝は区々である。永田地名解は「チャㇱ・ナイ。早川。トク土人云,チャシはホユプに同じ。走るの義。故に早川の義なりと,コトニ土人又一云ふ。チヤシは柴なり,此辺小木多し,故にチヤシナイと云ふ。二説並に通ず」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.45 より引用)
ふむふむ。確かに chas-nay で「走る・川」と解せますね。また、cha あるいは has には「柴」という意味がありますから、cha-has-nay で「柴・柴・川」というのもアリなのかも知れません。うーむ……。

しかも、まだ続きがあります。

 北海道駅名の起源昭和25年版は「走る川」説。29年版は「チャㇽセナイ(滝をなして流れおちる川)か,あるいはチャシュンナイ(砦のある川)の転訛と考えられる」と別説。48年版には「この付近にはチャㇽセナイのような川は見あたらない」と訂正が書かれた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.45 より引用)
ちなみに、更科源蔵さんも「チャルセ・ナイ」には否定的で、「チャシ・ウン・ナイ」ではないか、と考えられていたようです。

再び「北海道の地名」に戻ります。

 ふつうならチャシ・ナイ(砦・川)と解されるのが自然な名なのであるが,その辺にチャシの伝承が残っていなかったのでこのように各種の解が考えられたのであろうか。なお研究問題が残っている地名である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.45-46 より引用)
というわけで、何故に chasi-(un-)nay と考えられなかったか、その理由が記されているのですが、ここで久しぶりに我らが「角川──」(略──)を見てみると……

松浦武四郎「丁巳日誌」には「チヤシナイ,右の方小川。此処にむかし夷人の貴人有し処にて,チヤシは城の事也。むかし城の有しと云事」とある。「夷人の貴人有し処」を教示したアイヌは,トックアイヌの乙名(首長)らであるが,住んでいたのはいつか,チャシがどこであったかは不明。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.869 より引用)
なぁんだ、やっぱりチャシの伝承があるじゃないですか(笑)。しかも、インフォーマントの「トックアイヌの乙名」って、「走る川」説を永田翁に伝えた「トク土人」と関係のある人物かもしれないわけで……。いやいや、地名の伝承というものも難しいものですね。

ちなみに、「トック」は「徳富」、すなわち現在の新十津川のあたりのようです。

奈井江(ないえ)

{nay-e}?
{その川}
nay-e??
川・頭(水源)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)(?? = 典拠未確認、類型あり)
ラリー・ジャパンが懐かしいですが……。

では、今回も「北海道の地名」から。

 奈井江町は南は美唄市,北は砂川市と上砂川町で,名のもとになった奈井江川が黄流している。古くは奈江村,後砂川村と改称。昭和19年分村して奈井江村となった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.46 より引用)
ふむふむ。そして現在は「奈井江砂川 IC」があるわけですから、離れたりくっついたりといった印象がありますね(IC はほぼ全体が奈井江町に属するようなので、何故「砂川」がつくのか少々不思議ではありますが)。続きを見てみましょう。

永田地名解は「ナエイ(naei,nae)。谷川。西岸高き川をナエイと云ふ。今奈井江と云ふは誤る。上川土人は谷をナエと云ひ,川をナイと云ふ」と興味ある説を書いたが,どうもよく分からない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.46 より引用)
確かに……。どうにも良くわからないですね。結局、山田さんも「nay の処属形(ママ)naye(その川)が地名に残ったものであったろうか」と、すっきりしない解でまとめてしまっていました。nay-e で「川・その」となりますね。

なお、明治時代に編纂された吉田東伍の「大日本地名辞書」には、「奈井江」ではなく「奈江井」と記録されています。

神威(かもい)

kamuy-sinrit-oma-p?
カムイ・先祖・いる・処
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
歌志内市内の地名です。「かむい」じゃなくて「かもい」なので注意が必要ですね。ちなみに道東の清里町にも「神威」と書いて「かもい」と読ませる地名があります。

地名の由来は……まぁ、kamuy であることには違いないんでしょうけど……。とりあえず「角川──」(略──)を見てみましょうか。

地名は,アイヌ語のカムイシンレルマップに由来するとも,またカムイ岳に由来するともいう。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.414 より引用)
おっかしーなー。歌志内にある「神威岳」は「かもいだけ」と読むはずなんですけどねぇ。それはさておき……カムイシンレルマップですか。えーと……。

整いました!(違う)。kamuy-sinrit-oma-p で「カムイ・先祖・いる・処」でしょうか。

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