2013年6月29日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (119) 「光珠内・美唄・産化美唄川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

光珠内(こうしゅない)

ka-us-nay
罠・多くある・川
(典拠あり、類型あり)
美唄市南部の地名で、JR 函館本線の駅があります。道央道には「光珠内トンネル」もありますね。さて、その由来ですが……。更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」から。

 高志内とも書いたところで、語源はカー・ウㇱ・ナイで罠をいつもかける沢の意であるといい、現在峰延駅付近にある川の名からでたものだという。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.108 より引用)
ka-us-nay で「罠・多くある・川」といった意味なのですね。続きも見ておきましょう。

カーというのは元来弓の弦とか、ひっくぐしの罠などをいうので、鹿をとるためのカーもあり、鶴などをとるためのカーもあるが、光珠内はおそらく鹿や熊をとるための罠をかけた所と思われる。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.108 より引用)
ふむふむ。個人的に「カー」と言えばディクスン・カーですが……(全然関係ない)。

……気を取り直して。地名で良く見かける「罠」は ku(仕掛け弓)ですが、ka は「仕掛け縄」のような感じなのかもしれませんね。

美唄(びばい)

pipa-o-i
カラス貝・多くある・所
(典拠あり、類型あり)
さぁ、最近無駄に文字数が多くなっているので、ここでシャキっと締めた文章を……書きたいものですが……(いきなり弱気)。

「美唄」の語源はアイヌ語の pipa-o-i で、意味は「カラス貝・多くある・所」なのでしょうね。折角なので、山田秀三さんの「北海道の地名」も見てみましょうか。

初めは市来知(三笠市)の管轄下であったが,明治 28 年沼貝村の名で独立,大正 15 年美唄町と改称,昭和 25 年市制を施行した(沼貝はピパイの訳名)。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.45 より引用)
この経緯は面白いですね。もともとアイヌ語和訳地名だったのを、アイヌ語に漢字を当てた地名に直したということになります。そして、その際に pipa(カラス貝)の「貝」の字を「唄」の形で残した……と。なかなか巧いことを考えたものですね。

 ここは古くからのピパイで,元来は美唄川の名であったろう。永田地名解はピパ・イ(沼貝川)と訳したが,イという語尾は名詞の後につかないので説明としては変だ。松浦図ではヒハヲマナイ(pipa-oma-nai からす貝・ある川)で自然な形である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.45 より引用)
ふむふむ。全く同感です。

また駅名の起源昭和 29 年版は美唄に近い形を考えてかピパ・オ・イ(からす貝・多い・処)の転訛と書いた。母音が二つ続くとその一つを落として呼ぶことが多いのでピパイとなる。巧い説である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.45 より引用)
omao の使い分けはなかなか難しいものがあるように感じますが、日本語にしてしまえばどちらも似たような意味のような気も……。そして気がつけば omao も略されて現在に至る……と。そう考えるとちょっと切ないですね(笑)。

産化美唄川(さんかびばいがわ)

sanke-{pipa-o-i}
前へ出す・{美唄川}
(典拠あり、類型あり)
名前の通り、美唄川の支流ですが、とても変わった名前の川なので取りあげてみました。答合わせの前に、「北海道の地名」を見ておきましょう。

 国道 12 号線を通ると,茶志内駅のすぐ南を産化美唄川(旧名はサンケピパイ),それと美唄川の間を奔美唄川(旧名ポンピパイ)が横切っている。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.45 より引用)
はい。やはりと言うべきか、「産化」は元々は「サンケ」だったようです。sanke と言えば「三毛別」という地名もありますが、「産化美唄」は sanke-pipai で「前へ出す・美唄川」という意味だ……となりますね。何を出すのかは例によって謎ですが、土砂か、あるいは雪解け水か……。もしかしたら鉄砲水かもしれません。

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