(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)
勇払(ゆうふつ)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
勇払は苫小牧のあたり一帯を指す大地名ですが、大地名の常で、その由来ははっきりしないようです。というわけで、今回も山田秀三さんの「北海道の地名」から。勇払は,津軽一統志では「いふつ」(1670 年),元禄島絵図でも「いぶつ」(1700 年)であるが,どういうわけか幕末から明治にかけて「ユウフツ」となり,ユー・プッ「温泉(川)の・口」と解されるようになった。秦檍麻呂は此の源キムンゲップ・トウという湖の水がぬるいからと書き,此川の枝流所々に温泉ある故と書き,永田地名解は川上に温泉あり,ユー・ペッ・プトゥ(温泉・川・口)というべきが略されたのだと書いた。現在然るべき温泉が見えないのに,どうしてそう呼ばれたかは分からない。研究問題である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.376 より引用)
いやいや、まったく仰るとおりで……。このあたりは「夕張」だったり「由仁」だったり、「湯」を想像させる割にはそれっぽい「湯」が無いのでいつも困るのですが、そうですね、勇払も「見えない湯」に踊らされた地名ということになりますね。続きを見てみましょう。ほど近い鵡川の古老たちに聞いて見たら,はっきりイプッ(i-put それの・口),あるいはイプトゥ(i-putu それの・その口)で,古い文献の音と全く同じであるが,そのイ(それ)が何を指しているのかが分からなくなっている。古くから勇払-千歳-石狩の交通路があったので,それを指しているのか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.376 より引用)
ふむ、yu と i が混同されるのも良くありますよね。個人的には、他ならぬ「ヤリキレナイ川」もその部類ではないかと思っているのですが……。ところで、勇払川を河口から遡っていくと、程なく「ウトナイ湖」にぶつかります(実際には、ウトナイ湖から流出しているのは「美々川」で、旧勇払川と合流したところで「勇払川」に名前が変わるのですが)。「それ」の口はどれ? という話ですが、素直に「ウトナイ湖」と考えてはいけないのでしょうか? ウトナイ湖から流出するという情報は、ランドマーク化するには十分だと思うのですが……。
あ、本題の「勇払」の意味ですが、i-put(u) で「それの・口」と考えていいかと思います。「それ」が何を指すかは謎のままですけどね。
トキサタマップ川
(典拠あり、類型あり)
現在の「勇払川」(新勇払川)は河川改良の結果、いったんウトナイ湖に流入するようになっているのですが、その(新)勇払川に合流するのが「トキサタマップ川」です。はい、繰り返しますが「トキサタマップ川」です。この川の名前の意味ですが、ロックな地名解がいちぶで好評の更科源蔵さんは、次のように記しています。
トキサラマップ川
ウトナイ湖の西小川。ト・キサラ・オマ・プ(沼の耳 <耳のようにつきでた> )にある川。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.67 より引用)
ふむ。to-kisar-oma-p で「沼・耳・そこにある・所」となりますね。現在のトキサタマップ川は新勇払川と合流後にウトナイ湖に注いでいますが、新勇払川ができる前は、トキサタマップ川自体がウトナイ湖に注いでいたわけで、その河口を見るに、確かに耳のように見えなくもありません。あるいは砂州ができていて、それが耳に見えたのかもしれませんが……。さて、もうお気づきかと思いますが、更科源蔵さんの地名解では「トキサラマップ」とありますが、国土地理院の地形図には「トキサタマップ」とあります。由来を考える上では「トキサラマップ」と見るのが自然なので、「ラ」の音が転訛して「タ」になったか、あるいは「ラ」を転記する際に「タ」と誤ったか。後者なのであれば、速やかに「ラ」に戻してもらいたいものです……。
美沢(みさわ)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
道央道のパーキングエリアがあります。PA だけにトイレしかありません。地形図で周りを見てみても、ゴルフ場以外には何も見当たりません(汗)。千歳市に入れば工業団地とかもあるのに……。さて、この「美沢」という地名ですが、もともとは美々川の支流の「美沢川」に由来するようです。「美沢」はお察しの通り和名で、もともとは「ペンケ・ビビ」だったのだとか。ちなみに「ビビ」は「美々川」のことで、pet-pet(川・川)が由来とされますが、異説もあるようです。
ちなみに、この「美沢川」は、千歳空港に水源を発するという、きわめて珍しい川でもあります。アイヌ語地名としては penke-pet-pet で「上の・川・川」ということで。
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