しばらく(4 ヶ月ほど)お休みを頂いておりましたが、本日より再開です。ドゾヨロシク。
苫小牧(とまこまい)
to-mak-oma-i
沼・山奥・入る・もの
(典拠あり、類型あり)
というわけで、一発目は大ネタから。苫小牧は、北海道における太平洋側の玄関口のひとつですね。もともとは遠浅の地形でしたが、砂浜を浚渫して港を造る一大プロジェクトがあったところです。
さて、苫小牧は
to-mak-oma-i で「
沼・山奥・入る・もの」なのですが、改めて見てみると、かなり意味不明です。逐語的には意味は明瞭なのに、一体どうしたことでしょう……。
ということなので、
山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょうか。
今まで,苫小牧については何度か書いてきたのではあるが,後で考えると何とも自信がない。改めて自信のないままの姿で書くことにした。
山田さんらしい率直な筆致ですね。続きを見ていきましょうか。
まず永田地名解(明治 24 年)は次のように記述したのであった。
「トー・マコマ・ナイ(沼の・後にある・川)。マコマ・ナイ(後の・川)。村の後背にある川。土人云,今は苫小牧と称すれども,実はマコマナイにしてトマコマイにあらず」。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.380 より引用)
あれ? 「苫小牧」の筈が、なんだか「真駒内」の話になってしまっていますね。
この二つの名は,語尾がナイで書かれているが,それを「イ -i(もの)」で呼んでも同じことで,今残っているトマコマイ,マコマイのことなのであった。永田地名解の読み方が少々変なので,一般の川名の流儀で読み直した。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.380 より引用)
ふむふむ、なるほど。
マコマイ(mak-oma-i)は「後に・ある・もの(川)」と解され,ここでは「村の」後と読まれた。あるいはその意味だったのかもしれないが,他地方にいくつかあるマコマナイは,どうも「山の方・に入っている・川」だったようで,これもそう解したくなる。樽前山のほうにずっと入り込んでいる川の意だったのではなかろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.380 より引用)
ということで、長々と引用してしまいましたが……。ポイントは、「トマコマイ」をまとめて解釈しようとするから話がややこしくなる、というところでしょうか。これは、もともと
mak-oma-i(「
山奥・入る・もの」)という川があって、そこから派生した
to-mak-oma-i(「
沼・マコマイ川」)という支流の名前が、いつしか一帯を指す大地名になってしまった……ということみたいです。
なお、
to-mak-oma-i の「トー」ですが、沼ノ端の近くにある「ウトナイ湖」のことでは無いみたいです。ウトナイ湖も苫小牧市内なので、つい混同してしまいそうになりますが……。
糸井(いとい)・小糸魚(こいとい)
koy-tuye
波・切る
(典拠あり、類型あり)
苫小牧駅の西側、二つ先に「糸井駅」があります。このあたりは「糸井」という地名で、これのどこがアイヌ語地名なんだ? と思いたくなりますが……。
この辺りの JR 室蘭本線は、ずーっと一直線に延びていて、確か「日本一長い直線区間」だったような記憶があります。これは、太平洋に沿って延びる海岸線が比較的真っ直ぐであることに依るところも大きいわけですが、このような海岸線が形成されるということは、沿岸の流れの強さを窺い知ることができます。
……わざとらしく前振りを並べましたが、「糸井」は、もともとは「小糸魚」(こいとい)という地名だったのだそうです。「コイトイ」といえば、釧路の「
恋問」や稚内の「
声問」の存在を思い出しますが、実は全く由来が同じで、
koy-tuye で「
波・切る」なのだとか。
ちなみに、地名は「糸井」に変わってしまいましたが、川の名前は今も「小糸魚川」のままです。せめて川の名前だけでもずーっと残してもらいたいものですね。
錦岡(にしきおか)・錦多峰(にしたっぷ)
ni-usi-tap?
木・多くある・山
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
JR 室蘭本線「糸井駅」の西隣にあるのが「錦岡駅」です。そして、その錦岡のあたりを流れている川が「錦多峰川」なのですが、ここも糸井と同じく「錦多峰」では読みづらい、ということで、地名は「錦岡」に改称されてしまったようです。
さてさて、その「にしたっぷ」の由来なのですが……。我らが「角川──」(
略──)を見てみましょうか。
古くはニシタフ・ニシラウともいい,西太府・仁慕とも書く。胆振(いぶり)地方中央部,太平洋沿岸の錦多峰川流域。北に樽前山がそびえる。
おおー、「にしたっぷ」に「仁慕」という字を当てた人がいましたか。なかなかこれは洒落ていますね! 続きを見てみましょう。
地名は,
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1088 より引用)
おっ、出ましたね。さらに続けます。
アイヌ語のニシタプにより「樹木収縮スル処」の意(北海道蝦夷語地名解)。このほかニシタプで「雲を被った山」の意とする説(バチェラー地名考),ニウシタプで「木多い山」の意とする説など(北海道の地名)諸説がある。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1088 より引用)
永田方正翁の「樹木収縮スル処」という解、たまーに目にするのですが(富良野市西達布とか)、これ、良くわからないんですよね。
ni-si-tapu で「
樹木・自ら・丸まる」かなぁ、と思うのですが……。
バチェラーさんの解はさておき……(
さておいた!)、まだ続きがあるので、それを見てみましょうか。
松浦武四郎は「ニシタプは昔し此川上に森が有,其に何時も雲が有しと,依て号し也」としている(東蝦夷日誌)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1088-1089 より引用)
うーむ。どうやらこれがバチェラー説のオリジナルなんでしょうか。
nis-ta-p で「雲・がある・所」となりますね。
これらの「雲を掴むような」地名解に対して、より一般的な解釈を出して来たのが山田秀三さんで、
ni-usi-tap で「
木・多くある・山」だと言うのですが……。妥当な感じはするのですが、それほど明確な特徴を持つ地名では無いので、今ひとつ決定打に欠けるというか。字面からはぴったりなんですけどね。
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