暮帰別(ぼきべつ)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
厚岸郡浜中町にある「霧多布大橋」の西岸に位置する地名です。では、早速まいりましょうか。「角川──」(略──)を見てみましょう。
ほきしやりべつ ホキシヤリベツ <浜中町>
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1339 より引用)
さすがは浜中町です。相変わらず飛ばしています(謎)。〔近世〕江戸期から見える地名。東蝦夷地アツケシ場所のうち。釧路地方東部,浜中湾沿岸。キリタップ島対岸の砂浜。地名の由来には,アイヌ語のボキシラリペッ(刺螺のいる潮川の意)による説(北海道蝦夷語地名解)のほか,ポクシラルベッ(しもの岩川の意)による説などがある(浜中町史)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1339 より引用)
えぇと、永田説は pok-sirar-pet で「ホッキ貝・岩礁・川」といったところでしょうか。実は浜中町史の説も pok-sirar-pet なので、音はまったく同じっぽいです。「角川──」に、まだ続きがありました。
松浦武四郎「初航蝦夷日誌」に「ホキシヤリベツ,川有。深し。船澗也。夷人小屋弐軒。此処秋味よく取る也。出稼多し。此上ニ沼有る也」,同「戊午日誌」に「ホキシラリヘツ,是陸の岬とキイタツフの陸の砂さきと対して有る処なり。其処に一細流れ有……此辺ホツキと云貝多く,其殻簇々として一面の浜となり居るによつて,ホツキの殻が,シラリとは小石原也,其如く成りて有る川と云義のよし也」と見える。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1339 より引用)
なるほど。現在でも貝殻がうずたかく積まれている光景を目にすることがありますが、古くは縄文の時代から「貝塚」なんてものもあったわけですし。これはやはり pok-sirar-pet で「ホッキ貝・磯・川」と見るべきなのでしょうが、sirar を「小石原」とするのは必ずしも一般的とは言えない(どちらかと言えば「岩」、特に「波に洗われる岩」というニュアンスで語られる場合が多いと認識しています)ため、そこに少しだけ疑問が残ります。
暮帰別の西には巨大な「霧多布湿原」があるので、もしかしたら pok-sar-pet で「ホッキ貝・葦原・川」だったのかな、と思ったりもします。
琵琶瀬(びわせ)
(典拠あり、類型あり)
暮帰別の南隣にある集落の名前です。霧多布湿原が海(琵琶瀬湾)と繋がっているところですね。さぁ、今回も「角川──」()を見てみましょう。
びわせ 琵琶瀬 <浜中町>
釧路地方東部,太平洋沿岸の琵琶瀬川流域。北西に茶内原野が広がり,東は琵琶瀬湾に面する。沖に嶮暮帰(けんぼつき)島がある。地名は,アイヌ語のピパ・セイ(カラス貝の・貝殻の意)に由来する。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1270 より引用)
ふむふむ。pipa-sey で「からす貝・貝殻」ですね。旧い記録を見ても大きな違いは無いようなので、この解釈で間違いなさそうな感じです。散布(ちりっぷ)
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
琵琶瀬から南西に行ったところにある所の地名(群)です。「火散布沼」という大きな沼と「藻散布沼」という小さな沼があり、その周りに「火散布」「藻散布」「丸山散布」「養老散布」といった地名が並んでいます。本当にアイヌ語由来なのか疑わしく思えてしまうのですが……。今回は、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。
浜中町大字散布村は琵琶瀬の南隣の土地。散布は永田地名解によれば,アイヌ語のチウルㇷ゚(chiurup あさり貝)から来た名というが,はっきりしない。この大字の中の現在の字名と永田地名解とをそのまま並べると次のようになる。
火散布〔ひちりっぷ〕シ・チュルㇷ゚(あさりの・大沼)
藻散布〔もちりっぷ〕モ・チュルㇷ゚(あさりの・小沼)
渡散布〔わたりちりっぷ〕ワタラ・チュルㇷ゚(岩側の・あさり)
養老散布〔ようろうちりっぷ〕イオロ・チュルㇷ゚(海中の・あさり)
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.256 より引用)
うーむ。chiurup という単語が辞書では見つからなかったのですが、とりあえず si-chiurup で「大きな・あさり」、mo-chiurup で「小さな・あさり」、watara-chiurup で「海中の岩・あさり」でしょうか。「養老」がちょっとわからないのですが、i-woro-chiurup であれば「それ・水に漬ける・あさり」となりますね。あれ? 「丸山散布」はどうなるのだろ?(←更科源蔵さんは、「──地名解」にて次のように記しています。
永田氏はチュルㇷ゚はあさりのことであると述べている。この地方ではたしかにあさりはチルップ(われらの掘りだすもの)というが、渡散布のワタラ(海中の岩)や養老散布のイオロ(それをひたすということであるが、エオルであれば山が崖になって水にささっているところをいう)とあさりとの結びつきがきわめて不自然である。散布は鳥川、鳥沼ともとれるが疑問の地名として置く。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.272 より引用)
むー、やはり漠然とした疑問を抱いている人は少なくないようですね。www.bojan.net
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