2012年11月18日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (90) 「浜中・霧多布・湯沸」

引き続き、浜中町の地名です。今日は中心部の地名を見てみましょう。

浜中(はまなか)

ota-noske
砂浜・中央
(典拠あり、類型あり)
根室市の西、別海町の南、厚岸町の東に位置する町の名前で、JR 根室本線(花咲線)には浜中駅があります。ただ、町の中心は駅から少し離れた霧多布のあたりです。

山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょうか。

 町名,湾名。元来の浜中は,浜中湾の西岸中央,霧多布の北の処で,永田地名解は「オタ ノシケ。浜中」と書いた。オタ・ノㇱケ(ota-noshke 砂浜・の中央)の意。それを訳して浜中としたのであろう。道内には,アイヌ語時代のオタノㇱケが浜中となっている処が多い。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.255 より引用)
ふむふむ、なるほど。確かに霧多布湿原の東側、浜中湾と湿原の間には長い砂浜が広がっています。ota-noske で「砂浜・中央」という地名も「さもありなん」という感じです。

ちなみに、釧路には「大楽毛」と書いて「オタノシケ」と読ませる、ある意味有名な?楽しい地名があります。道内各所の「オタノㇱケ」が「浜中」になっているのに、釧路だけ(じゃないですけど)原音主義?がそのまま息づいているというのは面白いですね。

霧多布(きりたっぷ)

ki-ta-p
茅・苅る・所
(典拠あり、類型あり)
浜中町の中心地と言える、とても美しい地名です。霧多布岬などがあります。

「角川──」(略──)を見てみましょう。

古くはキイタップといった。釧路地方東部,太平洋に浮かぶ陸繋島。北は浜中湾,南は琵琶瀬湾に面する。地名は,アイヌ語のキタㇷ゚(茅を刈るところの意)に由来し,対岸のビワセにアイヌ集落があった頃,当地で茅を刈ったことにちなむ(北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.486 より引用)
えー、ki-ta-p(あるいは kye-ta-p)で「茅・苅る・所」ということのようですね。あっさりと解がまとまってしまったので、「北海道の地名」からも少し引用を。

古い時代はここが和人の東の端の根拠地で,ここで根室アイヌとの取引をしていたのだという。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.255 より引用)
なるほど……! 確かに霧多布は良港ですし、霧多布の先は落石まで港湾に適した地形は無いですからね。

湯沸(とうふつ)

to-put
沼・入口
(典拠あり、類型あり)
「霧多布」の項で「霧多布岬などがあります」と書きましたが、国土地理院の地形図を見ると「湯沸岬(霧多布岬)」と書かれていたりします。霧多布は南北を海に面した海抜の高くないところの地名で、その東側にある元来は島だったとおぼしき部分は「湯沸」という地名だったようです。

「湯沸」と書かれると「湯沸かし?」と読みたくなりますが、もちろんそうではなくて「とうふつ」です。これは「濤沸湖」などと同じく to-put に由来するのでしょうね。このあたりの地形は断崖絶壁に囲まれているのですが、湯沸の集落のあたりには小さな沼(トー)もあり、僅かながら砂浜もあるように地形図からは読み取れます。

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