2012年3月17日土曜日

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「日本奥地紀行」を読む (18) 東京 (1878/6/7)

 

引き続き、今日も 1878/6/7 の「第四信」(本来は「第六信」)を見ていきます。

横浜の山の手

先週は、横浜の「ヘボン博士」の家に遊びに行ったところまで、でした。引き続き、普及版「日本奥地紀行」ではバッサリとカットされている部分を見ていきます。

断崖(ブラフ)はニューイングランドの美を伴っておりとてもきれいで、すべてのものが整然としてこぎれいです。両脇のきれいな平屋は急な坂道に沿ってうまく配置され、茂った灌木と生垣によって半ば隠されていて、ツツジ、バラや他の花木は今現在ちょうど清められた地面を蔽い優美に輝いています。丘陵の極度の急峻さによって、海側も陸側もどちらも風景は大変よくて、朝夕の富士山の眺望は壮麗です。
(高畑美代子「イザベラ・バード『日本の未踏路』完全補遺」中央公論事業出版 p.32 より引用)
イザベラは、「横浜」の印象を日によって二転三転させているようにも見受けられますが、概して「外国人居留地」のあたりについては好印象を抱いているようです。

日本人街は数えきれない目新しさで眼下に横たわっていますが、私は目下のところ私が目にしたものを言葉に表すことができません。またぼんやりとした外観すらうまく把握できないのですから。日本はすこぶる古く、精巧な文明をもった偉大な帝国であり、他の惑星へ旅行するくらいの目新しさを提供しています。
(高畑美代子「イザベラ・バード『日本の未踏路』完全補遺」中央公論事業出版 p.32 より引用)
「日本はすこぶる古く、精巧な文明をもった偉大な帝国であり」に続く文が「他の惑星へ旅行するくらいの目新しさ」というのが面白いですね。イザベラが目にした「日本人街」は、これまでに彼女が世界の各地で目にしてきたものとはまったく違う、新奇なものであったことは想像に難くないですが、その驚きと歓びを独特の筆致で書き記しています。

日本人として喜ぶべきところは、「精巧な文明をもった」と評されている点でしょうね。いわゆる「脱亜入欧」に向けた涙ぐましい努力に対しては概して冷淡な筆致ですが、それは「これまでの『日本』の姿」を尊重したい気持ちがあったからかも知れません。

中国人

続いては、普及版でも残された部分です。

 横浜に一日でも滞在すれば、小柄で薄着のいつも貧相の日本人とは全くちがった種類の東洋人を見ずにはいられない。日本に居住する二千五百人の中国人の中で、千百人以上が横浜にいる。もし突然彼らを追い払うようなことがあれば、横浜の商業活動はただちに停止するであろう。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.43 より引用)
横浜の「中華街」がいつ頃から存在するのだろう……という謎に対しては、このセンテンスがヒントになりそうですね。中国……より正確には「清朝」の人たちは、明治の初頭には既にこのレベルのコミュニティを形成していた、ということのようです。

どこでも同じだが、ここでも中国人は必要欠くべからざるものとなっている。彼は威勢のよい足取りで、すっかり自分に満足している様子をしながら街頭を歩いている。あたかも自分が支配階級に属しているかのようである。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.43 より引用)
「彼」が具体的に誰を指しているかは不明なので、これはあまり良くない訳かもしれません。「彼」は「中国人」と訳すのが(日本語としては)良さそうです。

当時の中国は清朝の末期に近く、列強各国に食い物にされていたのは皆さんご存じかと思います。この「威勢の良さ」は、中国の「保護者」たる列強各国の威を借りた……といったところでしょうか。まぁ、こういったメンタリティーは見習うべき所もありますね。

その黒い繻子製の靴は爪先の所を少し折り曲げてあるので、中国人は実際よりもずっと背が高く大きく見える。頭は大部分を剃っているが、後頭部の髪は束ねてすぼめるようにねじり、ふさふさとした弁髪として後ろに垂らしている。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.43-44 より引用)
えーと、これはつまり、ハイヒールに弁髪ということですね? うーむ、これはなかなかファッショナブルかもしれない……(笑)。

彼の顔はたいそう黄色で、皮膚はなめらかに光っている。彼はまったく裕福そうに見える。人に不愉快な感じを与える顔つきではないが、「おれは中国人だぞ」と人を見下している感じを与える。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.44 より引用)
この辺のプライドの高さは、さすがは中華思想の国だなぁと思わせますね。

彼は生真面目で信頼できる。彼は雇い主からお金を盗み取るのではなく、お金を搾り取ることで満足する。人生の唯一の目的が金銭なのである。このために中国人は勤勉であり忠実であり克己心が強い。だから当然の報酬を受ける。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.44 より引用)
「拝金思想」というやつですね。「勤勉であり忠実であり克己心が強い」というのは、なかなかの褒め言葉のように思えます(かつては日本人もそう呼ばれた時期があったような気がしますが……)。ちなみに「克己心」は「こっきしん」と読みます。元ヤクルトスワローズの広澤さんとは関係ありません。

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