2011年5月21日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (49) 「発足・梨野舞納・岩内・雷電」

本日は俵万智さんもびっくりの内容でお届けします(←

発足(はったり)

kamuy-hattar
神・淵
(典拠あり、類型あり)
泊村の隣の共和町には「発足川」が流れているのですが、その「発足川」の流域からちょいと離れた「リヤムナイ川」のあたりに「発足」という地名があります(ややこしい)。

とりあえず「角川──」の記載を見てみましょう。

地名は,アイヌ語のカムイハッタラにより,「神淵」を意味する。これはかつて鮭がこの淵に群集し,熊が来てこの鮭を獲ったことに由来するという(北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1172 より引用)
ふむふむ、なるほど。kamuy-hattar で「神・淵」ということですね。はい次!(←

梨野舞納(りやむない)

riya-ham-us-nay?
シャクナゲ・沢
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
まるでリアム・ギャラガーのいない「オアシス」のようですが……。今回は山田秀三さんの「北海道の地名」から。

 堀株川下流の字名,川名。リヤムナイ川は堀株川の北支流である。永田地名解は「リヤㇺ・ナイ。越年川。秋より来春に至るまで越年して鮭を漁することを得。故に名く」と書いた。
 リヤ(riya)は越年する,越冬する意であるが,riyam ともいうかを知らない。何か後に語があったのかもしれない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.472 より引用)
そう、山田さんも既に気づいていた通りで、「越年・川」であれば riya-nay になってしまいます。むむむ……というわけで、「む」が行方不明になってしまうのですね。「それもやむなし」などと言ってしまうと大喜利の世界になってしまうので(←)ちょっとだけ考えてみると……。

「萱野 茂のアイヌ語辞典」を見ていたところ、「リヤムㇱ【<riya-ham-us】」という項目が見つかりました。ちょいと引用してみましょう。

シャクナゲ.
|>リヤ=冬越し ハㇺ=葉 ウㇱ=つく
*冬の間も青々とした葉がついているのでこの名がついた.シャクナゲの葉を火にあぶると葉の表面にうっすらと油のような糊が出てくるので,それを巻きそのまま冷やすともとに戻らない.それに火をつけて葉巻タバコとしていたずら半分に吸うとタバコのようなにおいがするものだ.
(萱野茂「萱野 茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.469 より引用)
てことで、riya-nay ではなく riya-ham-us-nay(リヤムㇲナイ)で「シャクナゲ・沢」と考えられそうです。ちなみに「リヤムㇲ」を「シャクナゲ」としたのは萱野さんの解釈によるものですが、「エゾユズリハ」のことである、とする向きもあるようです。

なお、「──地名解」には「越年して鮭を漁する」という風に書かれているわけですが、ここからわかることは、明治時代にはすでに(地名の)原義が忘れられつつある、ということですね……。

岩内(いわない)

riya-ham-us-nay?
硫黄・沢
ye-o-nay??
軽石・多くある・沢
iwa-nay?
山・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
岩内ほどのメジャーな地名のことですから、これは楽勝でしょう! ……と思ったのですが(泣)。困った時は山田秀三さんのご意見を、ということで。

 岩内と呼ばれる川は,どこでも意味がはっきりしない。上原地名考は「夷語イワウナイなり。硫黄の沢と訳す」と書き,松浦氏西蝦夷日誌も「名義はイワヲナイにて硫黄沢なり」とした。永田地名解は「イヤウ・ナイ。鹿肉を乾す・沢。一説にイェ・オ・ナイ。軽石・多き・川(上流二里ばかりの処に軽石多く川中に満つ)。旧地名解にイワウナイ(硫黄・川)という。何れが是なるを知らず」とした。北海道駅名の起源は,更に「イワ・ナイ(山・川)の意にも解せられる」と一説をつけ加えた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.471 より引用)
ここまで各種取り揃えますか……。えーと、上原熊次郎説・松浦武四郎説は iwaw-nay で「硫黄・沢」ですね。永田方正説は……なんじゃこりゃ。鹿肉を……乾かす?? 曰く iyau-nai だと言うのですが、そんなアイヌ語あったっけ……。ye-o-nay のほうは確かに「軽石・多くある・沢」で合ってそうですが。

「北海道駅名の起源」説は iwa-nay で「山・川」だと言うのですが、これは明瞭に解釈できる代わりに意味不明ですね。合い言葉じゃないんですし……。iwa の前に何かがついていた、と考えるしか無いかもしれません。

雷電(らいでん)

????
(不明)


この「──傾向と対策」は、地図でルート上の地名を拾って書いているわけでして、基本的に作為は無いのですが、今日に限っては「発足」を除いて重いネタの連続で……息が上がりそうです(ぜぇぜぇ)。

えーと、今回は「角川──」から。

地名の由来には,アイヌ語のラエンルム(低い出崎の意)による説,ライテム(焼いてうなるの意)により,落雷し山が焼け崩れる時に地響きしたことにちなむ説(蝦夷地名考并里程記),ライニ(枯れ木の意)による説(北海道蝦夷語地名解)などがある。郷帳類には見えない。イソヤ場所とイワナイ場所の境目。正徳年間には「来年峠」と見える。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1601 より引用)
そ・う・で・す・かー……。えーと、「ラエンルム」は ra-enrum ですね。「ライニ」は ray-ni なんですが、「ライテム」って……。求人情報誌か何かでしょうか?(←) すいません。「ライ」はおそらく ray の筈なのですが、「テム」が何のことやらさっぱり……。

一句詠んでみました(←

山田秀三さんも、この上原熊次郎説を紹介しているのですが

上原熊次郎地名考(文政 7 年)は「ライデン。夷語ライテムなり。即ち焼てうなると訳す。昔時此崎え雷落て山の焼崩れし時,震動なしたる故此名ありといふ。又説に義経此所にて弁慶に別れし時来年といふて名残をせし故地名ライデンとなるともいふ。未詳」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.470 より引用)
などという巷説もあるのだとか。「義経が、来年会おうと言ったから、今日からここは来年峠』」なんて短歌を詠んでみたくなりますね(←←←

結局の所、良く分からないわけなんですが、ここはやはり湯沢さん(誰だ)に聞くしか無いのでしょうか(←

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