2011年4月30日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (46) 「幌武意・島武意・入舸・積丹」

本日は、軽めのものを三つと、重~いものが一つという、実にバランスの悪い内容でお届けします。でもご安心下さい。お値段以上です(←

幌武意(ほろむい)

poro-moy
大きな・入江
(典拠あり、類型あり)
普通だとスルーしてしまう地名なんですが、お隣に「島武意」もあるので、ここは両 A 面(死語)ということでひとつ……。はい、poro-moy で「大きな・入江」という意味みたいです。以上!(←

島武意(しまむい)

suma-moy
岩・入江
(典拠あり、類型あり)
積丹岬の駐車場からトンネルをくぐって北に向かうと「島武意」の海岸があります。元々は suma-moy で「岩・入江」でしょうね。……おおっ、これだけスムースに進むのは久しぶりかも!?

入舸(いりか)

ni-turi-us-i?
木・船をあやつる棒・多くある・所
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
と思ったら、難題にぶつかりました……。とりあえず「角川──」が詳しいので、見て行きましょうか。

古くは,「いりふね」とも称し,入舟・入船とも書いた。後志(しりべし)地方北部,積丹(しゃこたん)半島北端の日本海沿岸。地内を入舸川が西流。古くはニトトマリ(弁財澗,寄木ある泊の意)といった地域にあたるが(北海道蝦夷語地名解・北海道の地名),江戸期の地名としてはニカルイシ・ニトリイシ・メレヒロ泊・ニンヒルトマリなどが記録されているだけである(西蝦夷日誌)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.152 より引用)
2011/4/18 の記事でも触れましたが、この「入舸」は天然の良港とも言える地形で、その有用性が地名となり現在に至る……と見るべきのようです。もともとの地名だったとされる「ニトトマリ」は net-o-tomari で「流木・ある・泊地」のようですね。

基本的に「駄文オンリー」なのが当 Blog のコンセプトですが(コンセプトがあったのか)、たとえ駄文とは言え「お値段以上」の内容でありたいなぁ、ということで「ニトリイシ」についても(←

地名は,アイヌ語のニトリシ(船材をとるところの意)に由来(積丹町史)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1106 より引用)
「船材をとるところ」……? ちょちょいと調べた限りでは、少なくとも直訳では無さそうな感じです。どうやら ni-turi-us-i で「木・船をあやつる棒・多くある・所」ではないか……とのことですが、後に net-o-tomari と呼ばれるようになったことを考えると、net-tori-us-i で「流木・取る・いつもする・所」という、和洋……じゃないや、アイヌ・和・折衷の地名だった可能性も考えられそうです。蠣崎氏、あるいは松前藩の影響ではないか、と。

積丹(しゃこたん)

sak-kotan
夏の・村
(典拠あり、類型あり)
さぁ、「入舸」に文字数を割いてしまったので、「積丹」はすっきりと行きましょう! はい、sak-kotan で「夏の・村」といった意味です。確かに冬場の厳しさはかなりのものがありそうですから、「夏場限定」という考え方は良く理解できます。現代人のキャンプシーズンも、おそらく夏場限定なんだろうなぁ、と。

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2011年4月29日金曜日

北海道・東北の旅 2010/夏 (106) 「気鋭のシロート、北海道原子力環境センターに向かう」

「三航北国日誌」第 106 回です。本日も気鋭のシロートがひたすらウロウロし続けます!

オール電化の世界

とまりん館」の「展望ラウンジ」から階段を下りてみると、そこには……
オール電化の世界が広がっていました(笑)。ショールーム、ですね。

温水プールは無料です

ちょいと歩いた先には……
「プール受付」が。そう、原発の廃熱を温水プールに活用しているみたいです。ちなみに利用は無料なのだとか。

そんなこんなで、「とまりん館」は親子連れを中心に多くの人出で賑わっていたのでした。

北海道原子力環境センター

さて、次はその「とまりん館」から車で約 47 秒(当社調べ)のところにある「北海道 原子力環境センター 広報展示室」を見てみましょう。
この「6:00」はちょっと謎ですが、もしかしたら「開館時間は16:00まで」とかいった文字の途中、かも知れません。とりあえず深い意味は無いことには違いないです(←

いかにも「お役所」然とした建物ですが、中に入って見ましょう。
う……。はい。靴の泥は落としてから中に入りますね。
案の定と言うか、こちらはあまり人影を見かけません。展示内容もこんなお堅い内容です。
そもそも「北海道原子力環境センター」が何をするための施設なのかを理解しておかないといけないような気がしてきました。

北海道原子力環境センター(ほっかいどうげんしりょくかんきょうセンター、英訳名:"Hokkaido Nuclear Energy Environmental Reseach Center")は北海道が設置する北海道電力泊発電所周辺地域の環境保全のための監視、測定及び調査、防災対策並びに農業及び水産に関する試験研究並びに原子力に関する広報及び啓発を総合的に行うための施設である。
(Wikipedia 日本語版「北海道原子力環境センター」より引用)
……良くわかりませんね(←)。いや、見ての通りなんでしょうけど、そうですね、泊原発の安全性を行政サイドで追認するための施設、と考えれば良いのでしょうか。

検証は第三者が行ってこそ意味がある

実は、この「追認」という表現も練りに練ったものなんですが、本来だと「検証」であったり「認証」であるべきだと思うのですね。別の言い方をすれば「原子力オンブズマン」といった立場の人であったり機関が存在すべきだと思うのですが、残念なことに、現在の日本においては適格者がいないような気がします。こういった「監視」業務は、企業や行政から独立していることを国際的に認証された機関が行うことで、より信頼感が高まると思うのですね。

……ちょっと筆が(キーが?)滑りましたね。なんだか批判めいたことを書いてしまいましたが、本当のところは「北海道原子力環境センター」は貴重な存在だと思っています。原発の周辺環境を行政サイドで追試験して、その結果をあまねく公開するということは周辺住民の安心に繋がりますし、原子力や放射線に対する啓蒙活動もまた必要不可欠なことです。こんな時代だからこそ、粛々と活動を続けてもらいたいものです。

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2011年4月28日木曜日

北海道・東北の旅 2010/夏 (105) 「気鋭のシロート、のんびり景色を眺める」

「三航北国日誌」第 105 回です。本日は、気鋭のシロートがのんびりと景色を眺めます!(←

合理的なデザインであることは間違い無いのですが

「とまりん館」の「展望ラウンジ」にやってきました。
この「とまりん館」は、北電の「泊原発」の至近にあって、原子力の安全利用を PR するための建物……だと思うのですが、そういった背景にありながらこのデザインというのは、シュールと言うか、むしろブラックと言うか……。
ちなみに監視カメラは東芝製です(それがどうした)。

焦点のずれた話題

まずは南東の景色から。
うーん、これまたフォーカスが手前の雨滴に合ってしまっていますねぇ。不注意とは言え申し訳ない限りです。

南西を見てみると……
本来ですと、雲の向う側に「雷電山」あたりが見えたのかもしれませんが、生憎のお天気です。

展望台には望遠鏡がつきものですが

ちなみにこんなものもありました。「テレビ望遠鏡」とあります。
いわゆる「デジタルズーム」なんだと思いますが、これは、西側の海岸線を見ることができるとか、だったと思います。もちろんお金を入れなくても見ることができます。

ちなみに、このカメラには「コルゲンコーワ」などでおなじみの「コーワ」のロゴがありますが、こういった「テレビカメラ関連」も「興和株式会社」の本業のひとつだそうです。ケロちゃんもびっくりですね。

絶妙な立地、ジャン=ルイ・リッチ

そして北西の方角を見てみると……
山と漁港が見えますね。そして、実に絶妙な立地のおかげで尾根の向う側の原発は見えないようになっています(見えないことの是非を云々するつもりはありませんので念の為)。

ディテールに拘る

北側にはこんなものも。
発電用風車……の模型ですね。現在の出力が表示されるようにできているようなのですが、あいにく「調整中」とのこと。この模型をよーく見ると、一つだけ羽根のない風車があるのですが、
なるほど……。なかなかディテールにも忠実なんですねぇ。「1 号風車」が撤去されたのは、思ったほどの結果を残せなかったからなのでしょうか。今まであまり気にしたことは無かったのですが、発電用風車は騒音が馬鹿にならないケースもあると聞きました。効率が良くなれば有望な発電手段なんでしょうが、事前のアセスメントをしっかりする必要もありそうですね。

では……、階段を下りて 1 階に戻りましょう。

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2011年4月27日水曜日

北海道・東北の旅 2010/夏 (104) 「楽園ムードにシュロの木は必需品?」

「三航北国日誌」第 104 回です。本日も引き続き、気鋭のシロートが「とまりん館」をひたすらウロウロします!(なんなんだ

次は 2 階へ

さて、北海道電力「泊原発」のすぐ近くにある「とまりん館」の話題を続けます。この建物は単に原発を PR するだけではなくて、他にも様々な設備が整っているようです。高校野球も放映中ですし(←
1 階が「科学展示」「原子力展示」で、2 階に上がると「地域展示」などがある……みたいですね。1 階は軽く目を通したところなので、2 階に行きましょう。

良くある風景

2 階には、このような展示室があって、
良くあるようなパネルも展示してあったりします。
隣には、これまた色んな所で見かけそうなパネルがあって、
自称「北海道人」のこの方(ホントは「三重県人」)も紹介されていたりします。
もちろん、歌丸師匠のご先祖様では無い……筈です(未確認)(←

不在証明

こちらには、ちゃんとした?「学芸員室」もあるようなのですが、
あいにくご不在でした。残念なことです。

楽園ムードにシュロの木は必需品か

上から吹き抜け構造の 1 階を眺めると……
いやいや、楽園ムード満開ですよねぇ。

大人の事情を垣間見る

こちらは「図書コーナー」のようですが、子供向けの科学関連書籍が整然と並べられています。
「原子力情報公開コーナー」という案内がありますが、大人向け?の原子力関連情報は「閲覧希望の方は、総合案内または館員までお申し出下さい」とありますね。きっと、いろんな事情があるんでしょうねぇ……。

展望ラウンジへ行こう!

さぁーて、この何ともゴージャスな「とまりん館」、なんと 4 階には「展望ラウンジ」なるものまであります。これはもう、足を運んでみるしか無いでしょう!

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2011年4月26日火曜日

北海道・東北の旅 2010/夏 (103) 「10万年スパンの自転車操業」

「三航北国日誌」第 103 回です。本日も引き続き、気鋭のシロートが更に胡散臭さ全開でお送りします!

原燃サイクルとかプルサーマルとか

原発関連の展示の中で、個人的に気になったものをピックアップしてご紹介します(というのも、自分が「ふーん」と思ったものしか写真に撮っていなかったもので)。まずはこちら。
いわゆる「原子燃料サイクル」と「プルサーマル」の類似点と相違点を図示したもの、でしょうか。この辺はわたしもかなり理解が怪しいので、いずれどこかできちんと勉強しないといけませんね……。

その隣には、人によってはアレルギー発作を起こしそうな写真ですが(すいません)、
低レベル放射性廃棄物」の山、です。説明文を拡大すると……
なるほど。「六ヶ所村」で処理がなされるのは「低レベル放射性廃棄物」なんですね。あ、あくまで「客観的事実」を述べているだけで、「低レベルだから大丈夫」などと考えているわけではありませんので念のため……。

低レベルとか高レベルとか

で、「低レベル」があれば「高レベル」もあるわけですが、
「高レベル放射性廃棄物」をどう処分するのか、具体的な方法が記されています。「ガラス固化体」というヤツですね。
廃棄物(ガラス固化体)は、30~50 年程度冷却のために地上施設で貯蔵・管理した後、地下 300m より深い安定した地層中(岩盤)に処分します。

と書いてあります。冷やすのに「30 年から 50 年」というのも相当びっくりするわけですが、その廃熱?がどう再利用されているかがもっと気になりますね……。

ビールの単位は「東京ドーム」

さて、ビールの単位はご存じの通り「東京ドーム」ですが、北海道における「高さ」の単位は「さっぽろテレビ塔」だということがこの展示からは窺い知れます(←)。
テレビ塔の高さの倍以上を地下に掘り進んだところに何があるかと言えば、
高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)」が埋められる、ということのようです。

10 万年スパンの自転車操業

高レベル放射性廃棄物の最終処分場としては、フィンランドの「オンカロ」が建設中で、ここが「世界で唯一」だと聞きました。この展示を見て「あれ?」と思ったのですが、どうやら「オンカロ」に埋蔵するのは「使用済み核燃料」とのことで、使用済み核燃料の最終処分場が、現時点で世界中に「オンカロ」のみ、ということのようです。

確かに、他に計画されているのもカナダとスウェーデンのみで、どちらも licence application 2011 とあります。licence application と言っても、ライセンス管理のアプリケーションじゃないですよ。日本語だと「許可申請」といった意味です。まだ着工はしていないと考えるべきなのでしょうね。

それにしても、こうやって見てみると、人類は「10 万年スパンの自転車操業」をやらかしているんだ、ということになりますね。以前に、大前研一(かつて日立製作所で高速増殖炉の設計に携わったこともあり、原子力開発には推進的)の本を薦めて下さった方がいらっしゃったのですが、その方は「人類が高レベル放射性廃棄物の適切な処理技術を持ち合わせていない以上、原子力開発には反対だ。その点では大前研一の意見には同調できない」と断言されていました。

こういった「プリンシプルのある意見」は心地の良いものですね……。

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2011年4月25日月曜日

北海道・東北の旅 2010/夏 (102) 「※この絵はコンピュータグラフィックです」

「三航北国日誌」第 102 回です。本日も気鋭のシロートが胡散臭さ全開でお送りします!

力道山は今いずこ

北電「泊原発」にほど近いところにある「とまりん館」の話題を続けます。
左に進めば、お決まりの?原発の仕組みに関する展示があるのですが、その前に。左手前の階段をちょちょいと登ってみると、
小ホールがあり、そこには「高校野球 放映中!」の文字が。「ご自由にお入り下さい」と書いてあるので、中に入ってみましょう。
……。「街頭テレビ」に人々が酔いしれる時代は、いつの間にか終わってしまっていたようです(いつの話だ)。

というわけで泊原発です

では、展示の数々を見て行きましょうか(このご時世、気が重いですが)。
沖合から見た泊発電所の写真です。地図で見るとわかりやすいのですが、近くを通る国道 229 号は、原発の裏側をトンネルで抜けています。


もともと山が海に迫っている地形だった上に、旧道を構内道路として活用するためには、トンネルを掘ってバイパスするしか無かったんでしょうけど、結果的には「いろんな意味で」良くできた構造になっています。

首都圏の電力需要は計り知れず

今回の出来事で、原発に詳しくなってしまった方も多いと思いますので、もう少し詳細を見て行きましょうか。
「定格電気出力」を見せられても「ふーん」としか言いようがないのですが、最近は色々と情報が落ちてくるものでして。http://www.tepco.co.jp/forecast/index-j.html を見ると、東京電力のピーク時供給能力(4/25)は 4,000 万 kW なのだそうです。これを見る限り、泊原発をフル稼働させたとしても 200 万 kW 程度のようですから、泊原発クラスの発電所があと 39 ヶ所は必要になるということになりますね。……計算、合ってるんだろうか(汗)。

ちなみに、Wikipedia の「北海道電力」を見る限りでは、北電の発電能力は約 741.7 万 kW とのこと。同じく「東京電力」を見ると、水力と火力だけで約 4,489.1 万 kW、柏崎刈羽原発・福島第一原発・福島第二原発を含めると約 6,219.9 万 kW になるみたいです。単純計算で、北電は東電の 8 分の 1 以下の発電能力しか無い、ということになるんですね。

PwC とか TWR とか(違)

さてさて。日本の電力事情については日を改めるとして(改めるつもりなのか)、「泊発電所のあらまし」をもうちと見て行きましょう。

「原子炉の形式」は、「軽水減速・軽水冷却・加圧水型」とあります。日本の商用電力は、その歴史的経緯から東日本が 50 Hz(ドイツ式)、西日本が 60 Hz(アメリカ式)に分かれてしまっているのですが、他にも東西で違うものがあって、例えば原子炉の形式も東日本が「沸騰水型原子炉(BWR)」で、西日本が「加圧水型原子炉(PWR)」を採用しています(どうでもいい話ですが、個人的には PWR の設計の方がちょっぴり安全っぽくて良いなぁ、と思っています)。

ですから、泊原発もてっきり BWR で……と思いきや、PWR だったんですねぇ。BWR を採用しているのは東京電力と東北電力だけで、北海道電力は PWR を採用していたとは……気づきませんでした。PWR は冷却系が分離されているのが素敵なポイントですが、その「一次冷却系」と「二次冷却系」に介在する「蒸気発生器」のメンテがちょいと面倒なのがコストに跳ね返ってくるので痛いんだよね……といったところでしょうか。

並列か直列か、それが問題だ

「燃料の種類」は「低濃縮ウラン」とあります。ちなみに、いわゆる「原子爆弾」を造るためには「高濃縮ウラン」が必要だとされます。「高濃縮ウラン」を精製するためには遠心分離機でウラン 235 を抽出する必要があるのですが、イランは自国の核開発施設にて高濃縮ウランを精製できるだけの能力を既に有していて、IAEA による査察をのらりくらりと交わしている、なんて話もあります。

……話が逸れましたね。まぁ、「原発」と「原爆」では、ウラン 235 の濃度が全然違いますよ、ということです。どちらも人体などに与える影響は計り知れないわけで、そういった意味では似たり寄ったりとも言えるのですけどね。

※この絵はコンピュータグラフィックです

それにしても、気になるのがパネル右下の……
この注釈です。なんですとー! 写真をベースにレタッチしたもの……じゃあ無かったんでしょうか。どーしてまた……。

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2011年4月24日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (45) 「余市・古平・美国・婦美」

そんなわけでして(どんなわけだ)、「アイヌ語地名の旅」も積丹半島を進みます。

余市(よいち)

i-ochi?
アレ・多くいる所
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「余市」は、アイヌ語地名における音韻転倒の実例としてもっとも名高いものです。具体的には、もともと「イヨチ」だったのが「ヨイチ」になった、というものですね。と、ここまではまず間違い無さそうなのですが、問題は「イヨチ」の語源に諸説あることでして……。

とりあえず、大別すると「温泉の多い所」説と「ヘビの多い所」説に二分されます。yu-ochi で「温泉・多くある所」、i-ochi で「アレ・多くいる所」という意味になります。「アレ」は「熊」だったり「蛇」だったり、口にするのを憚るものを指すことが多いようですが、ここでは「蛇」だとされています。

一説によると(ごめんなさい。どこかで読んだのですが、出典を思い出せません)、余市の地元民は「温泉のある所」だと主張し、余市の近くに住む非・地元民は「あれは『蛇の多い所』だよ」とうそぶいた、なんて話もあるみたいです。「大樹町」でもありましたが、あまりに原義が格好のつかないものだった場合は、つい別の説に走ってしまいますからね。そう考えると、「蛇」説のほうがもしかしたら正鵠を射ているのかも知れません。

ちなみに、ちょっと楽しくなる異説としてはこんなものもあるそうです。

「年表余市小史」によれば,イヨティーン(ヘビのように曲がりくねった大きな川のある所の意)に由来するとし,ユーカラにも「文化神のオイナカムイが棲んでいて,ここでアイヌの人々にいろいろな文化を教え,英雄ヨイチ彦の太刀が無数のヘビと化した」と歌われているという。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1590 より引用)
高橋幸宏さんの顔を想像しながら読んでみると、より楽しめます(←

古平(ふるびら)

hure-pira?
赤い・崖
hur-pira?
丘の・崖
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「小平」や「赤平」など、北海道の地名は「平」を「びら」と読ませることが多いのですが、ここもその例に漏れず「ふるびら」と読みます。残念ながらその意味するところは明瞭ではないようで、hure-pira で「赤い・崖」という説や、hur-pira で「丘の・崖」とする説などがあるようです。また、

異説として、上原熊次郎の「蝦夷地名考并里程記」には、「クルピラ」で「模様のある岩山」であると記されています。残念ながらちょっとアルファベットには落とせなかったのですが、「クルピラ」が kur-pira なのであれば、「影・崖」といった意味となります。

留意すべき点としては、上原熊次郎が蝦夷地を探検する以前の元禄期の資料にも「ふるびら」という文字があるというところです。嘗て「クルピラ」だったものが江戸時代には「フルビラ」になっていたと考えるべきか、それとも「クルピラ」は単なる誤解によるものと考えるべきか、……さてどちらでしょう。普通に考えると後者なのでしょうが、もしそうだとしたら、どうしてそのような誤解が生まれたのかを検証したいところです。

美国(びくに)

pi-un-i?
小石・そこにある・所
pok-un-i?
陰・そこにある・所
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
なんだか安倍晋三さんが懐かしくなるような地名ですが……。現在では積丹町の東側に位置する集落ですが、もともとは美国郡美国町だったのだそうです。

この地は元禄期の記録にも「びくに」と記されていたようで、その由来は判然としません。上原熊次郎は「ビイウニ」の略で「小石のある所」であるとしますが、えーと、pi-un-i であれば「小石・そこにある・所」となりますね。でもこれだと「ビイ」とはならないような気がするので、あるいは pipi-un-i あたりが正解かも知れません。

ただ、明治期の永田地名解では全く違う話になっていまして、曰く pok-un-i で「陰・そこにある・所」という説を記しています(正確には tanne-pok-uni で「長陰アル處」、ご丁寧に注釈として「松浦地圖『タンネビクニ』ニ誤ル」とあります)。さて、どっちが正解なんでしょうか。

婦美(ふみ)

humpe-tomari?
クジラ・泊地
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
積丹町の地名なんですが、hum-i で「音・させる」という意味かなぁ……と思ったのですが、「角川──」によると全然違うようでした。

江戸期レブントマリの北側にフンベモエ(鯨湾の意)あるいはフンベトマリ(鯨泊の意)と呼ばれる船入澗があり,婦美の地名は,このフンベを略称したフミに由来するといわれている(積丹町史)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1301 より引用)
ふみ、そうでしたか(←)。いや、心の底ではちょっとひっかかるものもあるんですけどね。

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2011年4月23日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (44) 「手宮・オタモイ・忍路・フゴッペ」

はい、週末恒例のこちらの話題です。今週も懲りずに行きましょう!

手宮(てみや)

temmun-ya?
菅藻の・岸
(? = 典拠あり、類型未確認)
「手宮洞窟」などで有名な?ところで、小樽市街の北の方に位置します。あまり類を見ない地名なんですが、どんな意味なんでしょう。

ふむふむ、どうやら temmun-ya みたいですね。山田秀三さんはその意味を「菅藻の・岸」としています。萱野茂さんの辞書で逐語訳をしてみると「海辺のごみ・岸」となりますね。海藻が打ち上げられる浜辺、と理解すればいいのかも知れませんね。

おおっ、すっきりと終わった!

オタモイ(おたもい)

ota-moy
砂浜の・入江
(典拠あり、類型あり)
……ルビは要りませんね(←)。意味も明瞭で ota-moy で「砂浜の・入江」だと解されます。ただ、一点だけ不思議なのが、「オタモイ」の北側の海は地図で見る限りかなり峻険な崖のようなのですね。「オタ」も「モイ」も見当たらないのです。この辺の問題は山田秀三さんも認識していたのか、次のように記しています。

オタモイはオタ・モイ(砂浜の・入江)の意。地蔵堂の岩崖の下の入江の処が,現在小さな砂利浜になっているが,そこがこの地名でいうオタであったのだろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.494 より引用)
とあるのですが、果たして……。というのも、「小樽」の語源と言われる「小樽内」も、随分と余所から引っ越してきた地名なので、もしかして「オタモイ」もお引っ越し地名なんじゃないかな、などとふと思ったり……。もちろん何の確証も傍証も無いんですが。

忍路(おしょろ)

us-or?
湾・の中
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「忍びの路」と書いて「おしょろ」と読みます。まずはいつものように「角川──」の記述を見てみましょう。

地名は,アイヌ語のウショロ(入江・湾・懐の意)に由来する(蝦夷地名考并里程記・西蝦夷日誌・北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.289 より引用)
えーと、us-or で「湾・の中」という意味になるようですね。知里さんus-or ではなく upsor だ、と主張していたようですが、どっちにしろその意味するところは大して違いないようですね。

畚部(ふごっぺ)

hum-koi-ot-pe?
音・浪・多くある・(ある)もの
punki-ot-pe?
番人・多くいる・所
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「畚部」はかなりの難読地名ですが、「フゴッペ洞窟」ならご存じの方も多いかもしれません。さすがに「」は読めませんよね。ただ、国土地理院の地形図を見る限りでは、「畚部岬」という名前で健在のようです。

山田秀三さんも「畚部」の解釈には相当苦心していたようですので、先に「角川──」を見てみましょう。

古くはフグベ・フンコベ・フンゴヘ・フンゴヱなどともいい,●辺・糞部などとも書いた。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1284 より引用)※ ●は「魚」偏に「屯」

はい。先を続けましょう。

フゴッペの地名はアイヌ語に由来するが,異論が多い。「北海道蝦夷語地名解」では,フムコイベ(浪声高き所の意)による説のほか,フンキオベ(番をする所の意),フンコベ(トカゲの意)による説などをあげる。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1284 より引用)
「北海道蝦夷語地名解」は明治に編纂されたものですが、その時点でこれだけのブレがあるということは……前途多難です。

幸いなことに、最初の二説は山田さんがアルファベットに落としてくださっていました。ふむふむ、hum-koi-p(「音・浪・(する)もの」)では明らかに文法的にヘンなので、hum-koi-ot-pe(「音・浪・多くある・(ある)もの」)とすれば確かに筋は通ります。

「フンキオベ」のほうは punki-ot-pe で「番人・多くいる・所」となります。文法としては間違っていないと思うのですが、そもそも「番人」はそんなに多くないような気が……。あるいは punki-o-???-pe で、??? の部分がいつしか抜け落ちた、ということかも知れません。

「トカゲ」については……すいません。手がかりすら掴めませんでした。

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2011年4月22日金曜日

北海道・東北の旅 2010/夏 (101) 「『とまりん館』の内部に潜入!」

「三航北国日誌」第 101 回です。本日も気鋭のシロートが「ポスト原発」時代のビジョンを語ります。いや、騙ります、かな?(←

中の写真はありません

本日は、泊村にある「とまりん館」の話題なんですが、その前に……
手前に見える、郵便局のような建物の話から。……実は、中の写真を撮影するのを失念しておりまして。この手前の建物は、確か原発とは何の関係も無い、地元の名産品なんかを紹介する建物だったような気がするのですが……。同じ敷地内に別の建屋で、しかも大きさが全然違うというところを皮肉に感じたものです。

足元に注意が必要なその訳は

では、本丸に突入しましょう。
いきなり何やら案内板が立ててありますが、さて、何が書いてあるのでしょう?
ふむふむ。ここの入口は意匠も凝っていて、通路の真ん中にガラス張りの川のようなものがあるのですね。実はこの「ガラス張りの川」は、実際にガラスの下に水が流れるようになっています。

実際に「お足元」を見てみると、
実際は、ガラス面よりも段差の方が危ないような気がするのですが……。

昭和の遺産?

さらに奥の方にはこんな案内板も。
……。今でもいるんですかね、こういう示威行為に走る方々って。そういった主義主張を繰り広げることそのものを否定するものではありませんが、一般市民を精神的に威嚇するようなやり方は誉められたものでは無いような……。まるでいわゆる「反社会的団体」と大差ないような気がするんですよね。

「とまりん館」の内部に潜入!(←

で、その「とまりん館」の中は、と言えば……
いい具合にピントがボケているのですが、まるでどこかのゲーセンに迷い込んだかのような……。奥の方に進んでみましょう。
ディスプレイひとつを取っても凝った作りです。
実にどうでもいいんですが、これ、パルト小石さん(ナポレオンズ)の持ちネタのアレに思えてしまうのは……私だけですよね(←

「不都合な真実」(北電編)

「ようこそ泊発電所へ」というビデオをしばらく眺めていたところ……
うーん、いわゆる「不都合な真実」の例というヤツですねぇ。しかし、北電の原発はここしか無い筈なのに(で合ってますよね?)、泊原発だけで約 40% を発電しているというのはショッキングですね……。

これを代替するには、「襟裳岬周辺を風車で埋め尽くす」「羽幌から天塩、サロベツ原野も風車で埋め尽くす」「シューパロダム級のダムをじゃんじゃか造る」「石炭火力発電を復活させる」程度の荒療治が必要になるかも知れません。できれば「石炭火力」は使いたくないですけどね。

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2011年4月21日木曜日

北海道・東北の旅 2010/夏 (100) 「気鋭のシロートが虚実に迫る!(← 」

「三航北国日誌」第 100 回です。本日は、あろうことか気鋭のシロートが泊原発の虚実に迫ります!(←

ニシン漁でウハウハな歴史に思いを馳せる

「神恵内村」を通り過ぎ、今度は「泊村」にやって来ました。
「鰊御殿とまり 入口 →」という看板がありますね。このあたりも明治の頃はニシン漁でウハウハだったのかも知れません。

泊村の話題はこれにて終了(←

「泊村」を通り過ぎ、今度は「共和町」にやって来ました(え?)。
左側に、何やら見栄えのしない(失礼!)建物が見えます。「環境センター前」という交差点ですね。

……では余りに残念すぎるので

……せっかくここまで来たのですから、寄っていきましょう。どちらにも。


はい、実は左手に見える見栄えのしない(重ねて失礼!)は「原子力環境センター」という施設で、そのすぐ手前右側には「とまりん館」という施設があるのですね。ここは「泊原発」のお膝元なんですが、この両者の違いを比較してみるのはなかなか面白いです。

「とまりげんぱつ」を変換すると「止まり原発」と出してくる ATOK、なかなかブラックな……。

つまり、どう違うかと言いますと、こちらが「北海道原子力環境センター」なのに比べて、
「とまりん館」はこんな感じです。
これまた随分と違う雰囲気の建物ですが、まぁ目的も違うので仕方が無いですよね。ちなみに「とまりん館」は「泊村」と「共和町」の境界線上にあって、「北海道原子力環境センター」は全域が「共和町」にあります。

とまりん館はリッチでゴージャスだった

てことで、まずは小綺麗なほうから(←)。
駐車場には雨にも拘わらず誘導係のおじさんが。……なるほど、こうやって雇用は創出されるわけですね。

車を停めて後ろを確認してみると、
随分とギリギリまでバックしましたね……という話では無く(←)、何やら彩りの豊かな実がなっている木が。ちなみにこれって何の実でしょう?

北緯四十三度からの……

空いたスペースにはこんなオブジェも。
ちょうどこの近くに北緯 43 度線が走っているとのことで、どうやらそれを現すオブジェのようです。

では、行きましょうか

「とまりん館」の手前に、まるで郵便局のような小さな建物が見えます。
ピンボケですいません……。まずは手前の建物から見て行きましょう。

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