2010年12月18日土曜日

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珠玉のアネクドートの数々

 

本日はちょっといつもと趣向を変えまして、ソ連の珠玉のアネクドートの数々をご覧に入れます。では、どうぞ!

粛清・パート 1

スターリン大粛清が吹き荒れていた一九三〇年代──。
スターリンが秘密警察長官のベリヤを呼んで命令した。
「けさ目を覚ましたら、金時計が盗まれていた。夕方までに犯人を捜し出せ」
夕刻、スターリンは再びベリヤを呼んで言った。
「時計は見つかった。置き場所を間違えていたようだ。捜査はもう必要ない」
「同志スターリン、もう手遅れです。すでに容疑者三十人を逮捕し、うち二十九人が自白しています」
なんだと。残りの一人を徹底的に吐かせろ
(名越健郎・編訳「独裁者たちへ!!」講談社 p.20 より引用)ISBN4-06-256132-8 ※ 強調は引用者による
これは割と有名なものですが、「なんだと。残りの一人を徹底的に吐かせろ」のくだりが追加されているのが新しいです。そもそも「盗難」そのものが存在しないのですから「容疑者」が存在するはずもないのですが、それが 30 名も出てきた上に、「残りの一人を──」と言われた日には堪ったものじゃありませんね(笑)。

粛清・パート 2

秘密警察の長官ベリヤがスターリンの執務室を訪れて報告した。
「スターリン閣下に瓜二つの男を逮捕しました」
「ただちに銃殺しろ」
「あるいは、鼻だけ切り落とすとか……」
「いい考えだ。鼻を切り落として、銃殺しろ
(名越健郎・編訳「独裁者たちへ!!」講談社 p.21 より引用)※ 強調は引用者による
これは「鼻」を「ヒゲ」に置き換えたバージョンが有名でしょうか。岡田真澄さんはフランスに生まれて助かりましたね(←

粛清・パート 4

一九三四年、スターリンの政敵といわれたキーロフ・レニングラード州共産党第一書記が暗殺された。スターリン書記長は翌日、集会でこの事件を報告した。
「諸君、われわれの親愛なるキーロフ同志が昨日、何者かに暗殺された」
すると、集会の後ろの方から声がかかった。
「同志スターリン、よく聞こえません。いったい何が起きたのですか」
「キーロフ同志だ。昨日何者かに殺された」
「同志スターリン、まだよく聞こえません。だれが殺されたのですか」
「……うるさい。だれでも邪魔な者は殺すのだ
(名越健郎・編訳「独裁者たちへ!!」講談社 p.22-23 より引用)※ 強調は引用者による
ポロリ発言といえばエリツィンですが、スターリンも負けてはいません(笑)。
名著「独裁者たちへ!!」です。みんなで復刊リクエストを出しましょう!

ポツダム宣言

ポツダム会談。スターリンとトルーマンとチャーチルがサロンでくつろいでいた。
チャーチルが金のシガレットケースを取り出して、二人の元首に煙草をすすめた。トルーマンとスターリンは煙草をとり、シガレットケースを誉める。トルーマンがケースに彫りこまれた献辞を読んだ。
「わが老ウィニーに。ロータリークラブ」
こんどはトルーマンが自分のシガレットケースを取り出す。同じく純金製。献辞はこうだ。
「わが敬愛するハリーに。民主党」
そこでスターリンも自分のシガレットケースを披露する。どっしりした金にダイヤモンドが嵌めこまれ、美しい書体で献辞が彫りこんである。
「わが敬愛するヴィンディッシュグレーツ伯爵に。ウィーン・ジョッキークラブ」
(平井吉夫・編「スターリン・ジョーク」河出書房新社 p.70-71 より引用)ISBN4-309-47192-7 ※ 強調は引用者による
ヴィンディッシュ=グレーツ家は、ハプスブルグ家の流れを汲むオーストリアの王家……で合ってるでしょうか。いずれにせよ、スターリン本人に献呈されたものでは無いというところがポイントです。

プーシキン

一九三七年、ロシアの偉大な詩人アレクサンデル・プーシキンの死後百周年を記念して、ソ連政府はプーシキン記念像のコンクールを公布した。さまざまなアイデアが殺到した。
厳格な選考の結果、次の三つの作品が佳作となった。
「コーカサスの頂きに立ち、はるか彼方を眺めるプーシキン」
「決闘の敵手の弾丸を胸に受け、まさに倒れんとするプーシキン」
「ミューズの手から月桂冠を戴くプーシキン」
だが、一等賞を獲得したのは次のようなタイトルの作品だった。
プーシキンを読むスターリン
(平井吉夫・編「スターリン・ジョーク」河出書房新社 p.70-71 より引用)※ 強調は引用者による
これにはもっとエスカレートしたバージョンも存在するのですが、もっとも素直なバージョンを選んでみました。

祭日

スターリンが高名な占い師を訪ねた。
「わたしは、いつ死ぬだろうか?」
「はっきりとは申せぬ。じゃが、これだけはたしかじゃ。汝は大祝祭日に死ぬはずじゃ」
「どの祝日だ」
汝の死んだ日が、最大の祝祭日になるじゃろう
(平井吉夫・編「スターリン・ジョーク」河出書房新社 p.137-138 より引用)※ 強調は引用者による
モーダスポネンス的な占いの一例ですね(笑)。

遺書 2

スターリンは二通の遺書を残した。第一の遺書の表書きには「私の死後、開封せよ」とあり、第二の遺書には「事態がまずくなったときに開封せよ」とあった。
第一の遺書が開かれた。
「すべての責任を私に押しつけよ」
しかし、これで人民を慰撫できたのは、ほんのつかの間だった。経済状態は相変わらず劣悪で、各所で不満が爆発した。
そこで第二の遺書が開かれた。
私とまったく同じように行なえ
(平井吉夫・編「スターリン・ジョーク」河出書房新社 p.140-141 より引用)※ 強調は引用者による
「スターリン・ジョーク」が出版されたのは 1983 年なのですが、だとすればとても先見の明のあるジョークであるように思えます。「第二の遺書」が開封されたのは、おそらくエリツィン政権末期ではないでしょうか……。

スターリン・ジョーク?

預言書?「スターリン・ジョーク」です。ソ連に限らず、東西対立華やかし頃の東側諸国の庶民の息吹を愉しむことができます。
それにしてはスターリンばっかじゃないかって? そりゃあそうです。今日(12/18)はスターリンの誕生日とされている日だからです(12/21 説も根強いようですが)。

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