小平(おびら)
(典拠あり、類型あり)
他ならぬ平取町に「小平」(こびら)という地名がありますが、こちらは「おびら」です。そういえば、日本で一番 WRC に詳しい女性キャスターと言われた小平桂子アネットさんはお元気なんでしょうか。「おびら」は集落の近くを流れる「小平蘂川」(おびらしべ・かわ)の「蘂」が下略された形のようです。「おびらしべ」の由来は o-pira-ush-pet(オ・ピラ・ウㇱ・ペッ)で「川尻に・崖・ある・川」とのこと。「平」=「ピラ」=「崖」という図式は他にも応用が利くので覚えておくように(は?)。
留萌(るもい)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「留萠」は「るもい」だよね、と普通に思ってしまうのですが、もともとは「ルルモッペ」と読んでいたのだそうです。萌え~☆(←永田方正「北海道蝦夷語地名解」は、ルルモッペを「Ruru mope ルル モッペ 潮靜川(シオシヅカハ)」だとします。次のような脚注もつけています。
「ルル」は潮、「モ」は靜、「ペ」は川ナリ此川潮入リテ流レ遅レシ故ニ留萠村ト稱ス
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.395 より引用)
北海道駅名の起源は rur-moy-pet(「海・湾・川」)または rur-pa-un-pet(「海・の上手・にある・川」)という新説を唱えていたようですが、どうやら rur-mo-ot-pe で「海(潮汐)が・静か・でいつもある・者」と見て良さそうです(-pe は -pet で「川」としても可)。……てなことを山田秀三さんが「北海道の地名」に書いていました(←増毛(ましけ)
(典拠あり、類型あり)(? = 典拠あり、類型未確認)
字面が気になる人も多い地名だと思いますが……(なんでだ)。「増毛」は引っ越してきた地名で、もともとは現在の「浜益」(はまます)のあたりを意味する地名だったそうです(「浜益」については、また日を改めて)。永田方正「北海道蝦夷語地名解」には、「浜益郡」の意味として次のように記しています。
濱益(ハママシケ)郡 原名「ヘロㇰカルシ」(Herok' kar' ushi) 鯡場ト譯ス一名「マシュキニ」(Mashkini) 剰多ノ處義ヲ鯡漁多キニ取ル奈留邊志ニ「マシキ」ハ善美ノ義トアルハ「アイヌ」等ガ意譯ノ詞ナルベシ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.5 より引用)
えーっと、旧字体については申し訳ないですが慣れてください(←)。「濱」=「浜」、「譯」=「訳」、「處」=「処」ですね。「邊」は「渡辺さん」の「辺」です。さてさて……。えーと、「ハママス」の語源となった「マシケ」は、もともとは「ヘロㇰカルシ」という地名だった、というわけですね?「ヘロㇰカルシ」をそれっぽく直してみると、heroki-kar-us-i となります。「ニシン・獲る・いつもする・所」とう意味になります。確かに増毛はニシン漁で一時代を築いた街ですから、いかにも、という感じの地名ですね。
いつも以上に何がある?
別名を「マㇱキニ」と言った(「マシュキニ」とありますが、これは s を「シュ」とした永田方正氏の有名な悪癖によるものです)とありますが、これは maskin-i で「いつも以上に・ある所」といった意味だと考えられます。これも、何が「いつも以上にある」のかは空気を読まないと判らない例ですが、これは「ニシン」を指すと見て間違い無いのでしょう。「増毛」は、頭髪が気になる世の男性方にとっての「瑞祥地名」だったりしますが、アイヌの世界でも「大漁」を意味する「瑞祥地名」だった、という話になるような気がします。語彙の貸借の有無はさておき、いずれにせよ「おめでたい地名」だというのは面白い話ですよね。
ちなみに、増毛のあたりの地名は特徴的なものが多いので、これまた日を改めてまとめてみる予定です(予定は未定ですが)。
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