2010年10月17日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (14) 「美深・仁宇布・フーレップ川・志美宇丹」

お休みの日はこのネタで。……いや、場所にも依るんですが、ハマったら結構時間がかかるもので……。

美深(びふか)

piwka
小石川原
(典拠あり、類型あり)
美深町は、名寄市と音威子府(おといねっぷ)村の間にある街ですが、piwka(石原・小石川原)が転じて「びふか」になった、とされています。永田方正北海道蝦夷語地名解」には「Piuka ピウカ 立待」とありますが、これには山田秀三さんも「どうしてそう読んだのか見当がつかない」と記していました。

ちなみに「立待岬」は函館山の南東にありますが、永田地名解はここでも pi-ushi を「立待」としていて、山田さんは同様に「そんな意味があるだろうか」と疑問を呈しています。さてどうしたものか。

仁宇布(にうぷ)

ni-u-p?
木・ある・もの(川)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
士別にはトヨタのテストコースがありましたが、ここ仁宇布にはスバルのテストコースがあります。意味するところは ni-u-p で「木・ある・もの(川)」ではないかとのこと。確かに川面すれすれまで木が群生していましたし、あるいは流木も多かったかも知れません。平取町の「荷負」(ni-o-i)と親戚のような地名ですね。

フーレップ川

hure-p?
赤い・もの(川)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
地名では「風烈布」となります。個人的に好きな地名なので取り上げてみました。永田地名解では「Hurep フーレㇷ゚ 赤キ處」(「u」には長音記号あり)とあり、現在でも hure-p 説が有力なようです。

似たような地名で hure-pet(赤い・川)がありますが、これは例えばこのような
腐葉土混じりの水が流れている川の場合や、あるいは酸化鉄などの成分を多く含んだ川のことを指したようです。また、水自体は澄んだものであっても、河床に赤い岩が多いなどで、川自体が赤く見える場合も hure-pethure-nay と呼ばれたようです。「フレナイ」であれば、平取町にも「振内」というところがありますが、果たしてどのパターンなんでしょうか。

ちなみに、この写真は志美宇丹で撮影したものです。

志美宇丹(しびうたん)

si-pi-ota-un(-nay)?
主たる・小石・川岸の砂原・ある(・川)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
同じく、個人的に気になる地名なんですが……。場所は旧・歌登町域にあります(現在は枝幸町)。諸説まちまちのようですが、マイナーすぎる地名だからか、永田方正翁も山田秀三さんも記録に残していないようです。嗚呼。

角川日本地名大辞典には、次のようにあります。

志美宇丹は,アイヌ語でシーピで「大きい石」,あるいはシーピルで「大きく刳られた」という語に関係があり(地名アイヌ語小辞典),ウスタン(群居する・この)とあわせて,「川に大石が沢山ある川」,あるいは「川岸が各所で刳られている川」と解される。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.659 より引用)
si-pi-us-tan あるいは si-pir-us-tan だと言うのですが、「ウスタン」というのになんか違和感を覚えます。ウズベキスタンのような感じですし(なんでだ)、更に言えば Dire Straits の「悲しきサルタン」みたいです(だからなんでだ)。

「シ・ピ・オタ・ウン」説

「ウスタン」に違和感を覚えた人は他にもいらっしゃったようで、少し工夫して si-pi-ota-un(大きな・小石・砂浜・ある)ではないか、とする説もあるようです。「シピオタウン」が「シビウタン」になった、とする考え方ですが、確かに「オ」と「ウ」の転訛(もちろんその逆も)は割とある話のようですので、とても説得力のある解だと思います。あとは山田さん流に、本当に小石混じりの砂浜(河原)があるか無いかを確かめることからでしょうか。

「シペ・イチャン」説

ちなみに、全くの別解としては sipe-ichan(鮭・産卵する処)という説もあるみたいです。カナ表記すると「シベイチャン」とも書ける(アイヌ語は半濁音と濁音を区別しない)のですが、「シベイチャン」と「シビウタン」、確かに似てますけど……。

余談ですが、sipesi-ipe で、もともとは「本当の・食料」という意味だそうです。確かにサーモンは本当に美味しいですもんね!

結論は?

「北海道蝦夷語地名解」を見てみると、志美宇丹の周りには「鮭(鱒)」に関する地名も散見されるので sipe-ichan 説も捨てがたいのですが、より現在の音に忠実な si-pi-ota-un 説も捨てきれません。んー、今後の研究課題とさせてください!

(2021/6 追記)現在「ニタツナイ川」と呼ばれている川が、明治時代の地形図では「ピウタン」と描かれていました。「ピウタン」が pi-ota-un(-nay) だとすれば、si-pi-ota-un(-nay) で「主たる・小石・川岸の砂原・ある(・川)」と解釈できそうな気がします。

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